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17 もう耐えられない(ヴィンセント視点)




レナがエドワードにエスコートされ、

ダンスホールの中心へと向かう姿を、僕は黙って見つめていた。

彼女が不安そうにこちらを見たとき、僕の心は張り裂けそうになったが、

どうすることもできなかった。

皇太子の誘いを断ることなどできるはずもないし、

ましてや僕に何か言う権利があるわけない。





エドワードの王族特有の美しい赤い髪が、

煌めくシャンデリアの光に映えてさらに輝いていた。

彼の黄金色の瞳はまるで宝石のようで、

その隣にいるレナの儚くも可憐な銀色の髪、

そしてコバルトブルーのドレスが、見事に調和していて、

彼女の装いを一層華々しいものにしていた。





周囲の貴族たちも、二人の姿に注目していた。

誰もが息を飲むほどの美しいカップルに見惚れていたに違いない。

エドワードが舞踏会に現れること自体が珍しいのに、

しかも彼が踊る姿など、よほどのことがなければ見られない。

だいたい彼がこうしてダンスをするのは、他国の姫などの重要な来賓がいる時だけだ。

だからこそ、周りの貴族たちは今、エドワードがレナを見初めたのではないかと、

王太子妃候補の誕生だと考えているだろう。



それに僕には耐えられなかった。

二人が「お似合い」だという周囲の反応も、

エドワードがレナを見初めたのではないかという可能性も、す

べてが重く胸にのしかかってくる。

僕は思わずその場を離れ、舞踏会の喧騒から逃げるようにホールの外、

中庭へと足を向けた。冷たい風が頬に当たり、少しだけ心が落ち着く。





エドワードが一度踊り始めたら、数曲は続けて踊ることが常だ。

皇太子と踊ったレナに対しては、ほかの貴族が下手に手を出すこともないだろう。

僕のそばにいるよりエドワードの近くにいる方が安全なんて皮肉な話だ。





僕は目立たない壁際に控えていた執事のアインに声をかけ、

「レナが踊り終わったら知らせてくれ」と伝え、中庭へと向かった。

夜風が冷たく、身体にしみ込んでいく感覚が心地よかった。

やはり、レナを舞踏会に連れてくるべきではなかった――

そんな思いが頭の中を何度も巡った。

だが同時に、もしレナが皇太子妃になることが彼女にとって幸せなら、

それも悪くないのではないかという考えも浮かぶ。

心の中で、さまざまな思いがせめぎ合い、僕の心は限界になっていた。




ベンチに腰掛け、顔を上げて夜空を見上げながら目を閉じてみた。

冷たい風が一層心地よく感じられる。

だが、ふと人の気配を感じ、顔を戻して目を開けると、そこには一人の令嬢が立っていた。

彼女の顔には見覚えがあった。


――ラファエルの妹だ。

「こんにちは。ミーナ、久しぶりだね。舞踏会に来たのかい?」

僕は声をかけた。





ミーナは少し驚きながら振り返ったものの、すぐに微笑みながら答えた。

「いえ、私は第二王子の婚約者ですので、

今日も王妃教育のために王宮に来ておりました。

兄がこちらにいると聞いたので、一緒に帰ろうかと思って参りましたの。」




「そうでしたね。婚約、おめでとうございます。」

僕は彼女に祝意を示しながら言った。

「ラファエルは中にいますよ。連れてきましょうか?」

彼女は首を軽く振り、

「いいえ、兄は今、きっと楽しんでいるでしょうから、

ここでもう少し待ちますわ。」と言った。

そう言うと彼女は僕の隣に軽くさし、

「隣、よろしいですか?」と控えめに尋ねてきた。




僕は小さく頷き、「どうぞ」と答えた。

「2人とも兄妹待ちですね。こんなことが前にもありましたね。」

と僕が笑うと

「たしか、前は王宮も中庭でしたね。

ヴィンセント様もまたレナ様を待っているのですか。

お互い手のかかる兄妹ですのね。」

とふふふとミーナが笑ったので、

「そんなことはない。好きでやっている。」

と答えた。

一瞬間が空き、

「私もですわ。」

驚いてミーナの顔を見ると

「ああ見えてお兄様は、意外といいお兄様なのですよ。」

と微笑んだ。

「君は…いいのか?それで?」

前回王宮の中庭で話した雰囲気と、今の話を総合して、

ミーナもまた僕と同じような苦悩をしていたのだということを察した。

どこまで聞いていいのかわからなかったが、

思わずミーナの顔を覗き込む。

「そうですわね。私たちはヴィンセント様たちと違って、

父も母も同じですので。

確かに婚約が決まった時は複雑な気持ちもありましたが、

王子のラニウス様はとてもいい方なのですし、

王家に嫁ぐことは公爵家にとっても名誉なことです。

今はこの婚約に満足しておりますよ。兄様も同じだと思います。」

と言って少し寂しそうな顔で微笑んだ。

ラファエルのあの女遊びは、妹の婚約が原因だったのかと思うとやっと合点が言った。

ミーナはがどこま察しているのかはわからないが、

ラファエルもミーナと少なからず同じ気持ちだったのではと思った。

あいつは昔から根は真面目なやつなのだ。

「そうか。」

僕はまた頭を上げて空を見上げた。

僕が諦めれば、僕さえ諦めれば、レナは幸せになれるんだろうか。

その考えが頭を巡るたびに目頭が熱くなった。

「お節介…になるかもしれませんが、お互いの想いは一度掛け違えると、

そのまま進んでしまうものです。いろいろな思惑を全て捨てて、

一度正直になるのはお互いにとって大事なことだと思いますわ。」



「素直になる…か。」

そんなことが許されるなら、どんなにいいか。

と僕は思いながら、遠くの舞踏会の明かりを見つめた。


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