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13 予期せぬ不愉快な来訪者 (ヴィンセント視点)



ある晴れた昼下がり、

執務室で領地の管理に関する報告書に目を通していると、

控えめなノックの音が聞こえた。





「入れ」

扉が開くと、アインが入ってきて少し困った表情で告げた。

「ヴィンセント様、訪問者がいらっしゃいました」

「訪問者? 急だな?誰だ?」

「ラファエル・フォン・ローゼウス様でございます」





その名前を聞いた瞬間、眉間にしわが寄る。 

ラファエルだと?

あいつが何の前触れもなく来るとは……。

この前レナと遭遇したというし。

なにかとても嫌な予感がした。





「用件は何だと?」

「特にお話されておりませんが、ヴィンセント様とお話したいと」

「……まあ、いい。通せ」





アインは深々と一礼して出て行き、数分後、

いつもの飄々とした態度でラファエルが姿を現した。

彼の栗色の髪がゆるく波打ち、なんだか不敵な笑みを浮かべている。

何しに来たんだこいつは本当に。





「よぉ、ヴィンセント。久しぶりだな」

「予告もなしに突然来るとは、相変わらず無礼だな、ラファエル」

「幼馴染だろ? わざわざアポを取る必要なんてないじゃないか」





僕は溜め息をつきながら、

ラファエルを執務室の隣にある小さめのサロンへ案内する。

アインがお茶を用意してくれていた。

ラファエルはソファに腰を下ろすと、

いつものように呑気な口調で話し始めた。





「まぁ、用がなきゃ来ちゃいけないのか?

ただちょっと顔を見に来ただけさ」

「お前がそんな目的で来るわけがない。何の用だ?」

ラファエルは私の問いを軽くかわし、

ゆっくりと紅茶を飲んでから、目を細めて笑った。

「実はさ、僕もそろそろ爵位を継ぐって言われててさ。

それに伴って、親から結婚を急かされてるんだよ。お

前も似たような状況だろ?」





「そんなことはない。

お前と違って、私はそんな心配をされる立場にいないし、

お前も知ってのとおり、両親は他界し、俺はもう爵位をついでいる。

公爵家子息のお前よりも現在立場は上だ。少しは敬え。」

「そうだったな。まあそんな硬いこと言うな。

両親に急かされてると、最近思うんだ、

そろそろ本気で理想の相手を見つけなきゃってね」





ラファエルが話を続けるたびに、嫌な予感が強まっていく。

彼が言いたいことはほぼ明らかだ。

そして、予想通り、次の言葉が発せられた。

「実はね、王宮の庭で理想の美しい令嬢に会ったんだ」

その瞬間、心の中で警戒心が一気に高まった。

静かに息を吸い込み、落ち着いて質問を投げかける。

「……その令嬢が誰か、分かっているのか?」






ラファエルは私の反応を見て、ますますにやけながら言った。

「どうかなあ。まだ正確にはわかってはいないんだ。

正式に挨拶を交わしたわけでもないし。

にしてもあれほどの美しい令嬢、社交界でも滅多に見かけないな。も

し舞踏会にでもでたら、ものすごい注目を浴びるだろうな。

そういえば王子のエドワードもまだ婚約者を決めてないようだし。」

僕は無意識に拳を握りしめた。心の中では、怒りと警戒心が渦巻いている。




「お前の理想の相手?冗談を言うのもほどほどにしろ。」

ラファエルは私の反応を楽しむように肩をすくめ、

飄々とした態度を崩さない。

「まぁまぁ、そうカッカするなよ。

身分も釣り合っているし、彼女も悪くないと思ってるんじゃないか?」

何をいうんだこいつは。

「……俺の想像する限りだと、

その令嬢にはお前に興味はないんじゃないか?

お前みたいな女たらしを高貴な令嬢が見染めるとはおもわないけどな。」

と語気を強くして言い返す。




僕は冷静を装いながらも、内心では怒りで満ち溢れていた。

ラファエルがレナに近づくなど、考えるだけで不愉快だ。




「いやいや、僕は運動神経はからっきしだけど、

こう見えて頭脳はあるし、文官としてもそれなりに優秀だ。

それに、これからは公爵家の当主としても立派にやっていくつもりだ。

彼女にとっても悪い話じゃないと思うんだけど?」

「彼女の幸せは彼女が決める。」

「ふむ、なるほどねぇ。

まぁ、そんな怖い顔をするなよ、ヴィンセント。

俺だって、まだ本気で求婚する気はないさ。

でもさ、今度の舞踏会で、もしかしたらそういう展開もあるかもしれないだろ?」




僕はもう一度拳を固く握りしめたまま、

ラファエルを睨みつけた。

舞踏会――それが彼の狙いか。

レナを狙って舞踏会で接触を図るつもりなのだろう。




「お前がその令嬢に近づくことは俺が許さない。

舞踏会で何か企むつもりなら、俺が阻止するまでだ」

「おっと、怖い怖い。

でもまぁ、そこは舞踏会でのお楽しみってことで。

僕も今度の舞踏会には参加する予定だから、お互い張り切ろうじゃないか」



ラファエルは立ち上がり、

「ごちそうさま。」とティーカップを置き、

飄々とした笑顔を浮かべてサロンを後にした。

最後に「お前に舞踏会での主役を取られないように気をつけないとな〜」

と、こちらを挑発するように言い残して。



奴が去った後、

立ち尽くしながら深く息を吐いた。

「ラファエルめ……」

今度の舞踏会、何があってもレナを守らなければならない。

奴に少しでも近づけさせるわけにはいかない。

改めて、レナを守る決意を強くした。





ーーーーー



帰りの馬車の中、心地よい揺れに身を任せながら、

窓の外をぼんやりと眺めていると、

ラファエルはついさっきのヴィンセントの顔が思い浮かんで、

ふっと笑いがこみ上げてきた。



「まったく、あいつも素直じゃないよな」

あの妹を溺愛していることは、

長年の付き合いから見て明白だ。

レナのことになると、

ヴィンセントはいつも冷静さを欠く。

今日もまさにその典型だ。

俺が少しレナのことを話題に出しただけで、

あれほど警戒するとは思ってもみなかった。





「好きなくせに、どうしてあんなに隠すんだか」

ため息をつきながらも、彼の反応はどこか滑稽で、

微笑ましくすら思える。

あんなに気を張って、妹を守ろうとする姿。

しかし、肝心のヴィンセント本人が

その気持ちに向き合えていないように見える。





「早く思いを伝えればいいのにな」

窓の外に広がる風景を眺めながら、

俺はつぶやいた。




「まぁ、そうやってモタモタしているなら、俺が奪ってしまおうか?」

そう言って、俺は思わずにやりと笑った。

もちろん、冗談半分だ。

けれど、レナの美しさは確かに目を引くし、

あんなに気高く優雅な令嬢に興味が湧かないわけがない。

ヴィンセントの妹だという点を抜きにしても、彼女は特別だ。




「あいつが動かないなら本当に俺が動くのもありかもな」

ふと、そう考えて微笑む。

俺にはあの堅物ヴィンセントほどの抑えられない嫉妬心もなければ、

無駄なプライドもない。公爵家だし、いい物件だと思うんだけどなあ。

もし彼がレナに対して何も動かないままでいるなら、俺が本気を出してもいな。

まあヴィンセントには殺されるかもしれないが。




「さて、次はどう動こうかな」

ヴィンセントがどう出るか――

それを見ながら、僕はこの先の舞踏会での楽しみがひとつ増えたように思えた。

馬車は静かに進んでいくが、僕の心は新たな事件の展開に少しずつ高揚していった。




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