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12 フルーツタルトが大好物のようです

夕食の席に座りながら、今日の訓練場での出来事を思い出して、

私はお兄様に感想を言いたくてうずうずしていた。



「お兄様、本当に素晴らしかったです!

今日の剣技、まさに圧巻でしたわ!

あんなに素早く、正確な動きを間近で見たのは初めてです。

私、感動してしまいました」

私は興奮を抑えきれずに、お兄様に感想を話しつづけた。

お兄様の動きが素早くて目で追いきれなかったこと、

お兄様の剣さばきが縦横無尽で人間の技には思えなかったこと、

抑えきれない興奮を伝え続けた。

お兄様は少し照れくさそうにしながらも、微笑んでいた。



「それはよかった。お前が喜んでくれたのなら、

張りきった甲斐があったな」

その言葉に、私はますます嬉しくなった。

お兄様が私のために張りきってくれたのだと思うと、

なんだか自分が特別なように感じられた。

まあ妹だからなのだろうともおもってしまうけど。





「でも……レナード様も、素晴らしかったですわ。

お兄様と剣を交える姿、本当に見応えがありました。

二人の技があまりに素晴らしくて、息を呑んで見入ってしまいました」





その瞬間、お兄様の表情が少し変わったのがわかった。

さっきまでの微笑みはどこかへ消え、

お兄様の顔に一瞬、冷たい影が差したように感じた。





「……レナードか」

お兄様は短くそっけなく答えた。

少し低い声に、私はお兄様の機嫌の変化がわかり、内心で戸惑った。

レナード様の話題は良くないのかしら?喧嘩でもなさったとか?



「まあ、あいつも確かに強い。いい騎士だ。」

お兄様はぶっきらぼうに少しすねたように言ったが、

その言葉にはわずかに苛立ちも混じっているようだった。





この話題はもしかしてタブー?

お兄様が勝った試合の話をしているのになぜだろうと思ったが、

私はお兄様の機嫌をこれ以上損ねたくないと思い、話題を替えた。





「そういえば、今日王宮の庭園で、ラファエル様に偶然お会いしましたの」

その言葉を口にした瞬間、お兄様の顔がより一層険しくなり、

私は話題選びを間違えたことをすぐさま悟った。

そしてお兄様の鋭い視線が一瞬アニーに向けらた。

これはまずい。すぐにフォローしなければ。




「あれは、仕方なかったのです。

庭園を歩いてたら急に声をかけられたんですもの。

お兄様は庭園の木陰であの時間に

本を読んでるご令息がいると思いまして?

アニーにも何の落ち度もありませんでしたわ。

私がすぐに会話をお断りしましたし、何の問題も起こりませんでした。」



そう言うと、お兄様は少し表情を和らげた。

「……そうか。まあ、あいつには気をつけろ。

あいつはくだらないことをつらつらと言って人の機嫌をとってくる。

今後はもし見かけても、近づかないようにするんだ」



お兄様の声には、どこか苛立ちが残っていたが、

「はい、お兄様。私もファエル様は……

失礼を承知でいうならば少し苦手かもしれません。

話し方が少し馴れ馴れしいというか、ちょっと距離が近い方のようで。」

と私が言うと、

「そうだろう?あいつは本当にしょうもない奴なんだ。

くれぐれも気をつけてくれ」

お兄様は、苦虫を噛み潰したような表情をし、

その様子が少し可笑しく感じた。

お兄様のこんな表情を引き出すラファエル様に少し興味も沸いた。




夕食が進み、デザートの時間がやってきた。

テーブルに運ばれてきたのは、見たことのない面白い形のケーキだった。

フルーツタルトのように見えたが、

上にはキャラメリゼされた部分が輝いており、美しい焼き色がついていた。

多分タルトの上に並べられているのはフルーツだろう。

「お兄様、このケーキは……?」

私はそのケーキを興味津々に見つめながら尋ねた。

お兄様は微笑みを浮かべ、満足そうに答えた。



「今日は、お前が大好きだったカフェのケーキを、

王宮の帰りに買ってきたんだ。

好きなものを食べたら、

記憶が戻るきっかけにもなるかもしれないと思ってな。

あ、いや別に無理に思い出せというのではなく…」

とお兄様が少ししどろもどろになりながらいいつくろっているが、

私はそれどころではない。

目の前にはすでにフルーツが茶色にコーティングされた

きらきらと輝くタルトがお皿に載せられている。

リンゴのようなカットされたフルーツがきれいに並べられ、

その上には透明感のあるカラメルが光を反射して艶やかに輝いている。

しっとりとした表面からは、ほんのり甘酸っぱい香りが立ち上り、視覚と嗅覚を刺激する。





「なんておいしそうなのかしら。お兄様ありがとうございます。」

とお兄様の言葉そっちのけで私はケーキに夢中になっていた。

一口食べてみると、ほろ苦いキャラメリゼと甘いフルーツの酸味が絶妙に調和していて、

まるで口の中で溶けるようだった。

幸せな気持ちが体中を駆け巡り、気づけばケーキはすっかり無くなっていた。



「レナ、それだけで満足か?まだ買ってきてある。もう一つ用意させようか?」

お兄様は私の無我夢中に食べている様子に、笑いをこらえているようだった。

私は強く頷き、お兄様が給仕係にもう一つ用意させてくれた。

しかし再び運ばれてきたケーキも、あまりの美味しさに一瞬で食べ終えてしまった。





「お前、本当にこのケーキが好きなんだな」

お兄様は、もう我慢の限界というように笑い始めた。

その笑い声を聞いて、私は驚いた。

こんなに楽しそうに笑うお兄様を見るのは初めてだった。

その姿に、私まで自然と笑顔がこぼれた。





「公爵様、もうすぐ舞踏会なのにレナ様を甘やかされては困ります」

とアニーが苦言を呈すと

「少し太ってもレナは可愛いからいいんだよ。」

とお兄様は返した。

私はお兄様のその言葉にどきっとしたが、ただのお世辞だと自分に言い聞かせた。

その夜、公爵家の食卓は、優しさと笑顔に包まれ、温かな空気が漂っていた。






私はその夜、手帳を用意し、これまでにわかった自分のことを書き記すことにした。

・名前はレナ

・公爵家

・両親は他界

・兄は公爵のヴィンセント

・メイドのアニーは幼馴染

・執事のアイン

・特に仲のいい友人はエリザベス、シャーロット、アンナ

・婚約者なし?

・お兄様はすごく強い騎士

・レナードも強い騎士でお兄様と仲良し?

・ラファエル様は危険人物でちょっと苦手

・カフェのキャラメリゼされたフルーツタルトが大好物

・ラズベリーも好き

お兄様やアニーによるとどれも記憶を失う前の自分と変わっていないはずだ。

私は私。変わっていない。そう言い聞かせ、私は眠りについた。


読んでいただき、ありがとうございます(*‘ω‘ *)

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本当に励みになります☆ありがとうございます!

ブックマークも大感謝です~( ;∀;)

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