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よろしくお願いします。

 ある日、人がやってきた。

 突然やってきた。


 最近は屋敷の外に広がる魔法人形たちの町を眺めるために、窓を開けていたのが間違いだった。締めていれば完全防音魔法の為に外の音なんか聞こえなかったのに。誰かが屋敷に向かって誰かを呼ぶ声が聞こえてしまった。


 当然、無視した。恐ろしいことこの上ない。


 しばらく無視していたが、まだ帰らないようだ。

 一人ではなく、複数いるような気配。

 ちらりと覗いてみると、すでにボロボロにはなっているがなんとか残っている門があり、その前で大声で叫んでいる人がいる。


「エンリケ卿!」


 誰だそれ、人違いだぞ。


「エンリケ卿!」


 …いや、どこかで聞いたことがある。

 遠い昔。そもそも人が会話しているところなんて家族くらいでしか見たことがない。兄上か?父様か?…母様かも。


『我がエンリケ家としての名に恥じぬよう、サシャ。学問に励むのですよ』そう話す、美しい母。久しく会っていない。


 …。我が家だった。私の名字だ。

 人と会わないものだから。名字は不要だったのだ。長らくその名を忘れていた。






 門前に立つのは三人。そしてそのさらに奥、沿道に軍隊のような服を着た人達が三十人ほど。

 エンリケの名を呼ばうのは偉そうな若い男。

 何度呼んでも誰も出てこないことに焦りを感じ始めている。


「…居ないのか」


 その隣にいる、隊服を着崩した男がヒョイっと進言する。


「殿下。あの窓のところで人影が動きました。」

「なに?」

「あの、左端の小さな窓です。」


 偉そうな若い男が、動きのあった小窓をにらみながら、なおも呼ばう。


「話を聞いてくれ! 降りてきてくれないか! 」


(いやよ)

 心の中で叫び返す。


「助けが必要なんだ!」やら、「共に来てほしいのだ!」やら。


(いやだ)


「…埒が明かない。」

「出てくる気配はありません。時間の無駄です。他の方法を探しましょう。」


 立ち並ぶ三人のうちのもう一人、優しそうだがどこか信用できない雰囲気の背の高い男が窓を見上げ、告げる。


「部屋の前まで行ってもいいですか?」

「…」


 それを聞いたサシャは少しだけ窓から顔を出す。 

(三人だけ。三人だけなら、いいかもしれない。)

 そう思って、窓から手を出し、指を三本立てる。そして、前にいる三人を一、二、三と指差した。そして、すぐに窓を締める。サシャにできる譲歩はここまで。


「何が違うのだ、セシル」


 偉そうな若い男は訝しげにセシルと呼ばれた背の高い男を見上げた。


「出てきてくれという言葉に拒否を示しますが、他はそうでもなかったので。有名な引きこもりのお方です。出るのは嫌なのでしょうが、もしかして、入るのならばと。」


 その言葉に、殿下と呼ばれた男は納得がいかない顔をした。


「カリム殿下、とりあえず入りましょ。」

 隊服を着崩した男、ピリカがカリムを誘導する。


 とにかく屋敷に入る許可は得られたので、カリムとセシルとピリカの三人で屋敷の長らく開けられなかった扉を開いた。






「お客さんだ…!」

(どうしよう、おもてなし方法なんてお母様から聞いたことなかったわ。)

 自分で入っていいと言い出したものの、突然の来客にサシャは慌てふためいた。

(アーたちは怯えないかしら。むしろ、いたずらしはじめるかも? なら、放っておいてもいいか。)


 頭を抱えて無駄に部屋を歩き回るサシャのマネをして、妖精や魔法人形が頭を抱えて遊び回る部屋はまさにカオスだった。

読んでいただきありがとうございます。

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