表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪役令嬢の魂約者になった俺は令嬢戦争を戦い抜く――叛逆令嬢ユーリの断罪――

作者: 十凪高志

 クルスファート王国王立学園。


 王侯貴族から富裕な商人、そして庶民まで多くの生徒を抱えるこの学園は、悪役令嬢に支配されていた。

 

 この学園では、力が全てだ。


 そして、悪役令嬢たちは、とても強い。


 令嬢だ。実家の権力もある。だがそれ以上に、彼女たちを強者たらしてめているのは、ある魔法の存在だ。


 令嬢力。


 そう呼ばれる、貴族ちと婚約する事で得られる魔法適正。


 魂約者と呼ばれるそれと婚約した令嬢は、S級冒険者すら上回る強大な力を手に入れる。


 その力によって、学園は支配されている。


 悪役令嬢とその魂約者、そして彼女たちが気に入った取り巻きたち。


 それらでなければ、人で無い――と言っても過言ではなかった。



「いやあああああああああ!!」


 今日も、「ちょっと服装が気に入らない」と言われた庶民の女子生徒が、皆の前で全裸に剥かれた。


「いい気味ですわ、豚が」


 そう笑うのは、悪役令嬢の一人――【鎌鼬令嬢】カーマ・ウィータッチ子爵令嬢だった。


 カマイタチ――真空の刃を操る令嬢魔法を使いこなし、あらゆるものを切り裂く。


 故に、鎌鼬令嬢。


 彼女は気に入らないものを切り裂く。


 それで顔に消えない傷を追わされた貴族令嬢もいたらしい。


 そうでなくても、このように――衣服を切り裂かれ、衆目の元に晒される。


 逆らってはいけない令嬢の一人だった。


「何をしていますの、取り巻きたち」

「はっ、お嬢様」


 カーマの取り巻きの女子生徒たちが、号令にうなずき、逆らった女子の前に立つ。


「いやあああああああっ!」


 取り巻きたちは、彼女の裸が衆目により晒されるよう、彼女の頭を掴み、立たせる。


 その光景に興奮し、凝視する男子生徒――など、誰もいない。


 少しでも、鎌鼬令嬢の気に障るような言動をしたどうなるか。明白だ。


 悪役令嬢は高貴にて上品で優雅だ。


 故に、下品で下劣な男子生徒を許さない。


 女性の裸に欲情した途端に、その真空の刃で、欲情したモノを切り落とされるだろう。


 悪役令嬢は、そのくらいは平気でやる。


 わかっているのだ、みんな。悪役令嬢たちはこの学園の支配者なのだから。


 ――だというのに。


「……」


 俺は、よせばいいのに。


「――それぐらいにしていただけませんか」


 よせばいいのに、俺は言ってしまっていた。


 俺は、彼女を知っている。


 親しい訳ではない。


 俺はただの騎士爵家の息子で、彼女とは身分も違う。名前すらも知らない。


 だけど、道に迷っていた所を、道を教えてもらったことがある。


 それだけだ。


 ああ、それだけだよ。


 だけど――女の子を助けるのが、騎士だろう。


 このフィーグ・フィルス。自分自身に恥じる生き方だけはしたくない。


 そして次の瞬間。


 真空の塊が、俺の身体を吹き飛ばし、数メートルほど宙にとばした後、地面にたたき落とした。


 それから後のことはあまり覚えていない。


 取り巻きの男たちが、俺を取り囲み、ひたすら殴りつけ、蹴り飛ばしてきた。


 鎌鼬令嬢は、すでに俺が無様にリンチされる方に興味が移ったようで、あの女の子の方は見向きもしていなかった。


 ……よかった。


 それを見ながら、俺の意識は沈んでいった。




 目を覚ましたら、懲罰室だった。


 俺の両腕は、鎖に繋がれていた。


「目が覚めたか」


 俺に言ってきたのは、拷問貴族たちだった。


「貴様は鎌鼬令嬢様に逆らった。故に――」


 拷問貴族は鞭を振るう。


「ぐわあっ!!」


「簡単には破滅させん。じわじわと断罪がお嬢様のお望みだ、ヒャッハアー!!」


 鞭を振るってくる。何度も俺の身体に激痛が走る。


 きっと、この光景を見て、愉しんでいるのだろう。


 もう一人の拷問貴族か、焼けた鉄棒を持ってくる。


「顔か? それとも股間か、尻か?」

「馬鹿かね貴殿は。先にそれではつまらないだろう、まずは腹だ」

「なるほど、楽しみは後にとって奥のは貴族の嗜みだな」


 ……クズが。


 拷問貴族の持つ焼けた鉄棒が、俺の腹に当てられる。


「ぐわぁあああああああああああああ!!!!」


 あまりの熱さに俺は叫ぶ。


「ぎゃははははははは!! それだ、それだよぉ!!」


 拷問貴族は俺の叫びを聞いて笑う。


 だが――


 次の瞬間、懲罰室の重い鉄の扉が開く。


「何……? 誰だ!!」


 拷問貴族たちにとって想定外だったのだろう。


 太陽を背にして現れたのは、一人の少女だった。


 黒く長い髪をなびかせ、背負った太陽に負けない笑顔で、俺を見て言った。


「よかった。まだ無事みたいだね」


「なんだあ貴様」

「ここは今、使用中だ!!」


 鉄棒と鞭をふりかぶり、少女に襲いかかる拷問貴族たち。


 しかし――


 一瞬。


 一瞬で少女は拷問貴族たちの脇を通り過ぎ、


 そして次の瞬間、二人の拷問貴族は壁に叩きつけられ、めり込んだ。


 ……強い。


 裏拳と回し蹴り。一発ずつを拷問貴族に叩き込み、それだけで壁に沈めた。


「へえ。今の見えたんだ。普通の生徒なら見えないと思うんだけど。

 うん、君、強いんだね」


「……強かったら、こんな事には……」

「いや、強いよ。何よりも心がね。

 そうでないと、こうなることがわかってて、悪役令嬢に刃向かったり出来ないよ」

「……こんなことになるなんて、わからなかっただけだ」

「……謙遜もすぎると深いになっちゃうよ。それとも誰かをかばってる?

 ……うん、そういうの好きだよ」


 そして少女は、手を振った。


 それだけで、俺を繋いでいた鎖は砕け散る。


「……何を。こんなことをしたら……!」


 鎌鼬令嬢に逆らうようなものだ。


「そうだね。確かに、今のボクじゃあ、魂約者のいる真の悪役令嬢には勝てない」


 そうだ。それほどまでに、悪役令嬢と、ただの冒険者や騎士貴族たちとの差は絶大だ。


 悪役令嬢には――悪役令嬢でないと、勝てない。


「だから、ボクは探してた。

 ボクの魂約者となって、一緒に戦ってくれる人を。

 ようやく――見つけた」


 彼女は、俺に手差しだしてくる。


 魂約者? 一緒に戦う?


 何を言っているのかわからない。


 わからないけど――


 俺は、心惹かれるものを感じた。


「ボクは転校生のユーリ・ルルン・ステラカデンツ男爵令嬢。

 君と婚約して、悪役令嬢になる者だよ。

 あの時の君を見て、この人だって思った。

 フィーグ・フィルス、ボクの騎士様」


 その誘いは、乗ってはだめだ。


 学園中の悪役令嬢を敵に回すことになるだろう。


 すでに鎌鼬令嬢に逆らったのだ。


 だから――


「もう、俺は破滅する」

「うん」

「鎌鼬令嬢に刃向かい、懲罰からも逃げ出したら――未来はない」

「そうだね」

「だから――」


 俺は立ち上がる。


「お前と――婚約する。

 どうせ終わりなら、ムカつく連中をぶっとばして、ぱーっと終わりたいからな」

「終わらないよ。とりあえず鎌鼬令嬢をやっつけたら、彼女に逆らっての断罪破滅は無かったことになるでしょ」

「そうだな。それは――心強い」



 そして俺は、彼女と婚約した。




「男爵令嬢ユーリ・ルルン・ステラカデンツ。あなたを告発いたしますわ」



 舞踏会で、鎌鼬令嬢カーマ・ウィータッチはユーリに白い手袋を投げつけた。


「罪状は、私のかわいい拷問貴族二人を不当にも暴力の限りを尽くし、学園から追い出したことですわ」


 裏拳とキック一発で沈んだだけなんだが、あいつら。


 おおかた、鎌鼬令嬢本人が「始末」したんだろう。ひどい話だよ。


 対してユーリは、待ってましたといわんばかりだった。


「いいよ。その挑戦受けるよ」


 そして白手袋を拾う。


「勝負方法は」

「ルール無用のデスマッチですわ」

「なるほど。貴族らしいね。

 時間と場所は?」

「今この瞬間、ここで――はどうかしら」

「いいね。わかった」


 鎌鼬令嬢が指を鳴らすと、舞踏会の会場が展開し、武闘会の会場になった。


 そして――決闘が始まった。



 開始と同時に、鎌風が舞う。


 鎌鼬令嬢の魔法だ。カマイタチ――真空の刃で相手を切り裂く。


 ユーリは一歩も動かない。ただ立っている。


 鎌の刃がユーリに直撃し、そのまま切り刻む――はずだった。


 しかし、刃はまるで弾かれたかのように軌道を変え、あらぬ方向へ飛んでいく。


「……!?」

「あれれ? どうしたのかな? 攻撃しないの? こっちから行くよ!」


 次の瞬間には、鎌鼬令嬢の背後に回り込んでいたユーリが、その背中に掌打を叩き込む。


「っ!?」


 だが――


 そのユーリの攻撃は、カーマに届いていなかった。


「あれは!」


 空気の壁――いや、真空の壁だ。その壁が、ユーリの攻撃を阻んでいた。


「さすがに、S級冒険者をも上回る力を持つと言われる悪役令嬢だね。

 でも――それぐらいは予想済みだよ」

「……面白いじゃないの!!」


 再び、鎌の令嬢が動く。


 先ほどとは比べ物にならない速さだ。そして繰り出されるのは、無数の真空の刃。


 避けきれるものではない。


「っ!!」

「はははは!! これでおしまいかしら!!」


 鎌鼬令嬢は笑う。そして、勝利を確信していた。


 ――一対一ならそうだっただろう。


 だが――


 悪役令嬢の決闘は、基本的には悪役令嬢同士で行う。だが、そこに魂約者が助太刀することは、慣例として認められている。


「はああああっ!」


 俺は、迷わず飛び込んだ。


「なんですって!?」

「まさか……! あの男……!!」

「なんということだ……!!」


 会場がどよめく。


「……あら、そんな手を使うんですの。魂約者を盾にするとは、令嬢の誇りはありませんの?」


 俺の身体は、真空の刃を全て受け止めていた。


 無茶苦茶痛い。


 だが俺は鎌鼬令嬢に向かって言う。


「騎士だからな。女性を守るのは当たり前だ」


 そして、俺の背後からユーリが飛び出す。


「ありがとう、フィーグ!!」

「おう、まかせろ!!」


 そして俺とユーリは、二人で一つの身体のように動き出す。


 俺の身体は、ユーリの動きについていけている。


 俺は思う。これが、魂約者の力なのか。


「うおぉおおおっ!!」


 俺とユーリのコンビネーションで、鎌の令嬢を追いつめていく。


 ――戦えている、悪役令嬢と!


「ちょこまかと!! うざったいですわね!!」

「そいつは、お互いさまじゃないかな!!」

「くっ!!」


 ユーリの一撃が、鎌の令嬢を吹き飛ばす。


「うわぁああ!!」


 吹き飛んだ先で、鎌鼬令嬢は壁に激突する。そして、鎌の令嬢の口から血が吐き出された。


「……げほっ……ごほ……!」

「降参するなら、許してあげてもいいよ」

「……誰が……!」


 鎌の令嬢は再び立ち上がる。まだやる気か。


「……ふぅ……」


 そして、鎌令嬢は息を吐いた後、言った。


「仕方ありませんわね……。本気を出しますわ」


 鎌鼬令嬢の令嬢力が急激に膨れ上がる。


 これは――


「やばい!あれが来るぞ!」

「逃げろ!!」


 周囲の観客貴族たちが逃げ出す。


 そして――



 武闘会場が、吹き飛んだ。


「うわあああああ!!」

「これは――鎌鼬令嬢の必殺魔法――!!」

「その名も!!」

「真空領域結界!!!」


 貴族たちが吹き飛ばされながら、その魔法の名を言う。


 真空をぶつけるのではない。


 敵のいる場所そのものを、真空にしてしまう結界魔法だった。


「ほーっほっほっほっほ!!! これで終わりですわ、どれだけの攻撃を避けられようと、耐えられようと!! 存在する空間そのものを真空にしてしまえば!! 呼吸すらできず――」


 真空の中では、水は常温で沸騰し、生物は爆ぜて死ぬと言われている。


 だけど、それは迷信だ。


 王立学院の大学院での実験室でそれは立証されている。


 真空中でも、動物は数分間は生きていられる。


 確かに空気がない以上。呼吸は出来ない。


 だけど――


「なっ!?」


 俺とユーリは、真空の世界の中で口づけを交わしていた。


 別に、敗北を悟り、最後の口づけを交わしていたとかそういうことてはない。


 循環呼吸。


 水中に取り残された人間の命を繋ぐために行われる人工呼吸と同じだ。


 これで――時間を稼ぐことができる。


 この真空の領域を突き進み、突破できるだけの時間が!


「なんて――破廉恥な!」


 鎌鼬令嬢が叫ぶ。


 抱き合う俺たちに攻撃をしようとするが、意味がない。


 彼女の真空の刃は、空気中だからこそ刃となる。真空の世界の中では、カマイタチは発生しない。


 俺たちは口づけを交わしたまま、ダンスを踊るかのように、回転しながら真空の世界を、鎌鼬令嬢に向かって一直線に走る。


 そして、俺たちの繋ぎあった拳に魔力が集中する。


 俺たちの唇が糸を引き離れる。だが、拳はつながったままだ。


 お互い頷いて、そしてその拳を――鎌鼬令嬢に叩き込む!!


「こんなことで――こんなことでぇえええ!!! この私がああああああああ!!!!!」


 拳が直撃する。


 鎌鼬令嬢カーマ・ウィータッチ子爵令嬢は、そのまま吹き飛んで武闘会場の壁に叩きつけられた。


「勝者――ユーリ・ルルン・ステラカデンツ男爵令嬢!!」


 学園の教師貴族が、勝者の名前を告げた。





「――っはぁ!」


 俺は息を吐く。


 呼吸は出来ていたとはいえ、真空の中にいたのはつらい。


「これで、君の罪状は帳消しだね、フィーグ」


 ユーリが手を差し伸べてくる。


「あ、ああ」


 ついさっきのあれを思い出してしまう。


 正直、俺は初めてだったのだが。


「……いや、そんな顔されるとその……ボクも初めてだったし」


 ユーリも顔を染めた。


 ……とても困る。


 肩の荷が下りたというか、気が休まって改めて彼女を見て気づくが、とても可愛かった。


 ……俺、この娘と婚約し、魂約者になったんだよな。


「……」


 周囲を見る。


 喝采も歓声も上がらない。それはそうだ。



「……あ、あなたたちは、終わりですわ」


 壁から落ちたカーマが、苦しみに呻きながら顔をあげる。


「この私を倒したところで、私の魂約者が……」


「そうだ……この悪役令嬢り魂約者は、戦いに出てこなかったよね。それは……」


 ユーリが疑問を口にする。だが、俺はその答えを知っていた。


 出てくるはずがないのだ。子爵程度の悪役令嬢の決闘に――あのお方が直々に。




 そして、舞踏会場に声が響いた。


「あなた程度の低俗な令嬢が、あのお方のご慈悲に縋ろうとするなど、不敬にも程がある。弁えよ」


 そして、電撃がカーマを撃つ。


「がああああああっ!!」



「あれは――!」


 舞踏会場を見下ろす塔。


 そこに、その男はいた。


「控えよ」


 その男ではない、別の女性の声が響く。


 その声に、会場の貴族子女たちはいっせいに跪いた。



「あれは……」


 ユーリの問いに、俺が答える。


「ルクルツァード王太子殿下。

 鎌鼬令嬢の――魂約者だよ」

「あれが……」

「ああ。偉大なる王国の王太子。だから俺みたいに、令嬢の決闘に一緒に参加したりしない。

 殿下にとって、彼女は魂約した多くの令嬢の一人に過ぎないからな」


 いわゆるハーレムという奴だ。


 もっとも、カーマは殿下に触れる事すら許されなかっただろうが。


 殿下からの寵愛を受けるには、実力も爵位も功績も高くないといけない。


 殿下は、殿下こそがこの学園の真の支配者なのだから。


 殿下が初めて口を開く。


 おそらくは、魂約の儀式以降、初めてカーマに対してかけた声だろう。




「悪役令嬢決闘の掟第零条。決闘に敗北した者は、魂約破棄される」



 それは、決別の言葉――断罪の言葉だった。


 敗北者に用は無い。ただそれだけの、事務的な。


 その言葉に、カーマは顔面蒼白になる。


 魂約破棄――悪役令嬢にとって最も重い断罪のひとつだ。



「そんな――お待ちください殿下!! 私はまだ――」


 縋ろうとするか鎌鼬令嬢――いや、もはやその名前を剥奪されたカーマに、ルクルツァード殿下は冷たい視線を送る。


 そして――


「格下の子爵令嬢程度が、見苦しいですわ」


 冷たい声が響く。


 次の瞬間、カーマの全身がズタズタに切り裂かれた。


「ぎゃあああああああっ!!!」


「――下品な悲鳴。令嬢たるもの、鳴き声も優雅でなくてはね」

「豚に気品を期待するだけ、最初から無駄な話」

「まったくだ。アタイたちみたいに育ちがよくねぇんだからよ」


 カーマをあざける声。


 その声の主は、四人の悪役令嬢だった。


「悪役令嬢四天王……!!」


 王太子殿下を補佐する、学園最強の四人の公爵令嬢だ。


 その姿は、逆光になっていて見えない。


「転校生がいると聞きましたが……中々に面白い方ですわね」

「先程の踊り、中々に見事でした。下賤な庶民にしては及第点かと」

「一応、男爵。庶民じゃない。似たようなものだけど」

「どうでもいいさ、ンなこたぁ。楽しいパーティーになりそうじゃんか」


 ……まさか、四天王がユーリをこの場で断罪するつもりか?


 だとしたら守り切れる自信がない……だけどせめて、逃がすくらいは。


 俺はユーリの前に立つ。



「やめよ」


 殿下が一言、言葉を発すると、四天王は従順に従った。


「此度の決闘、実によい余興であった。褒めて遣わす。

 我が魂約者を傷つけた無礼は――それが魂約者でなくなったが故に、罪そのものが無くなった。

 よって、この二人を此度の件で断罪する事は許さぬ」

「はっ――仰せのままに、愛する王太子殿下」


 四天王たちはその言葉に従い、俺たちへの殺気を鎮めた。


「さらばだ、若き騎士、フィーグ・フィルス。そして若き悪役令嬢、ユーリ・ルルン・ステラカデンツよ」


 そして、殿下たちの姿は消えた。




「……いったか」

「みたいだね」


 危機は脱したようだ。


 ひとまずの、だけど。


 しかしまあ。なんでこんな事になったのだろうな。


 確かに、悪役令嬢が一方的に学園を支配し蹂躙するこの状況は気に入らなかった。


 だけど、こんなふうに逆らうことになるとは思わなかった。


 そのうえ、王太子殿下に……目をつけられただろうな。


 名前呼ばれたんだぞ、殿下直々に。そして絶対にそれは誉れなんかではない。


 やはり俺の将来はお先真っ暗だ。


 だけど……不思議と、後悔はない。不安はあるけど、絶望は無い。


 それはきっと、


「さーて、と」


 ユーリが背伸びをする。


「お腹すいちゃった。何か食べに行こうか」

「ああ」


 ……この子がいるから、この子と出会ったからだろう。


 客観的に見たら、疫病神ん何かにしか見えないのかもしれないが。


 そもそも、なぜ悪役令嬢を倒そうとしているのか。目的は何だ。全く分からない。


 だけど――この悪役令嬢は、悪い奴ではないと言う事はわかる。


「そういえば……」

「ん?」

「悪役令嬢には、それぞれ称号があるけど、ユーリは何なんだ?」

「ないよ。そもそも君と魂約したばかりだしね。

 ……うん、そうだな。

 君がつけてよ、フィーグ」


 ユーリは無茶を言って来る。


「そうだな……」


 悪役令嬢たちに戦いを挑む。打ち勝つ。倒す。


 そう豪語してやまない少女だ。


「叛逆令嬢……ってのはどうだ?」


 それは、この王国そのものに逆らうにも等しい行為だ。


 叛逆の悪役令嬢。


 ふさわしい名前だと思う。


「うん、いいね」


 ユーリは、にっこりと頷いてくれた。




「さあ行こうフィーグ、ボクの騎士様。悪役令嬢たちを断罪しに――」


「ああ、行こう。俺の御嬢様」


 そして俺たちは歩き出す。


 この叛逆のバージンロードを。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] まさかのバトル小説!(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ