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風の国のお伽話 第二部  作者: 花時雨
補遺

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さいごのはなし エピローグ

最後までお読みいただき、感謝しております。

有難うございました。


「めでたし、めでたし」


物語の本がぱたりと閉じられる。

その音を聞いて、まだ眠れずにいた男の子は目を開けて、琥珀色の瞳でベッドの中から見上げた。

それを見て、物語を読んでいた婆やは男の子の金褐色の髪を撫でながら優しく話しかけた。


「おやおや、ユー様、まだお眠りになれないのですか?」

「うん。やっぱりいつものアンジェリーカと声が違うから、何だかわくわくしちゃって」

「あらあら。別の御本を読みましょうか? 出入りのノーさんの大商会から、新しい御本が届いておりますよ。ユー様も大好きな英雄ファルコの物語です」

「ううん、今夜はもういいや。眠くなるまで、婆やとお話ししていい?」

「まあ、光栄ですこと。いいですとも」

「ねえ、アンジェリーカは、今日はどうしたの?」

「アンは、庭師頭のゲルさんの所へ呼ばれておりまして、何だかずっとお説教されています」

「ひょっとして、今日の事で?」

「今日の事? 何か御存じなのですか?」

「うん。お庭でね、アンジェリーカが玉杓子でお鍋から何かを播いていたんだ」

「何かを? 何でしょうか」

「アンジェリーカに尋ねてみたら、熱々のポタージュを正確に敵に掛ける練習だって。兜の隙間からでも顔に掛かれば、相手はたまらず反応して隙ができるから、そこを狙ってもう一杯、たっぷりと。そしたら悶絶してすぐに戦闘不能になるからって。上達したら槍よりずっと遠くから戦えるって、お母さんに教えてもらったって言って一所懸命練習してた」

「まあまあ、それは」

「すごいなあって思って、そのことをゲルトにもお話ししたら、『芝が傷んだのはあいつのせいか』って、怒って探しに行っちゃった」

「それはまあ、困りましたね」

「アンジェリーカに悪いことしちゃったかなあ。僕、アンジェリーカのことが大好きなんだ。優しくしてくれるし、パンケーキとか、いろいろ美味しいものを僕のために作ってくれるし」

「まあ。アンが聞いたら喜ぶでしょう」

「うん、アンジェリーカにも言ったことあるよ。そしたら喜んで、変な踊りを踊ってた。『愛さえあれば齢の差なんて。坊ちゃまが成人なさるまで胃袋をつかみ続けるの』とか歌ってた。何のことかよくわからなかったけど」

「そうなのですか」

「うん、アンジェリーカ、なんだかお母さんの侍女頭さんに注意されてた。『指先が伸びてません』って。それで二人で踊りのおけいこをしてたよ」

「おやまあ。でも、そのままにしておけば良いですよ。幸せでしょうから」

「そうだね。あ、そうだ、婆や、読んでくれたこのお話はこのあと、どうなったの? 皆、幸せになったの?」

「ええ、ユー様。幸せになりましたよ」

「本当に?」

「ええ、だからこそ、ユー様がここにいらっしゃるのです。えへへ」

「よくわかんない」

「さる伯爵のお家も、お子様が何人もおできになって。皆さま髪も瞳も色とりどりでお綺麗で。金髪と勿忘草色の瞳だけはいらっしゃいませんでしたけれど。うぷぷっ」

「やっぱりよくわかんない」

「でしたら、お幸せかどうか、明日いらっしゃる、王女殿下と将軍閣下にお尋ねされてみられれば?」

「うん。王女様と将軍様も、僕のもう一人のおばあさん、おじいさんなんだよね?」

「ええ、そうですよ。ユー様のお母様であられる王太子妃殿下のお母様、お父様に当たられます」

「そうなんだよね。なんだか、そこらへんがむずかしくって。でも王女様はたくさんご本を読んでらっしゃるから、きっと何でもご存じだよね。楽しみだな。将軍様は無口だけど、時々してくださる狼のお話が面白いから、大好きなんだ」

「それはようございました。でもその前に、午前中は武術のお稽古ですよ」

「そうか。明日教えて下さるのは、近衛師範なの?」

「さあ、師範のクー様は国王陛下の護衛のお仕事もお忙しいですから。師範代の奥様かもしれません」

「師範だといいなあ。とても優しく面白く教えて下さるから。奥様は普段は優しいんだけど、稽古場に入って薙刀を持たれるとすごく厳しくなられるから、ちょっと怖い」

「あら、まあ」

「それに妹のヴィオレッタにも教えるでしょ? ヴィオレッタったら、師範代の真似をして『このべにゆらちをもておあいていたちゅ』って僕を追い掛け回してぽかぽか叩くんだ」

「まあ、それは大変ですね」

「うん。僕より強いみたいで、ちょっとやだ。『わたちよりつよくなられるまでは、あんちんちてふるろーじゅへおよめにいけまちぇん』とか言ってるし」

「それではユー様も頑張ってお稽古に励まれないと。大丈夫、ユー様は国王陛下のお名前をいただいているのです。真面目に励めば、きっと、陛下と同じように強くなれますよ。さあ、もうおやすみなさい」

「うん。ねえ、婆や、お歌を歌ってくれる? 婆やのお歌を聞くと、なんだかほっとして、すぐに眠れるの」

「いいですとも」

「婆やは、きっとアリエッタより歌がうまいよね」

「あらあら、そんなことをおっしゃっては、ウンディーネ様のお怒りを買って、愛のお力が得られなくなりますよ」

「それはやだ」

「では、婆やと一緒にウンディーネ様にお詫びしましょう」

「うん。ウンディーネ様、ごめんなさい」

「それではお許しいただけません。婆やの言うように言ってください」

「わかった。おしえて」

「若く美しく儚げなアリエッタ様、御恵みを持ちまして」

「わかくうつくしくはかなげなアリエッタ様、おんめぐみをもちまして」

「どうか御許しを得られますように」

「どうかおん許しをえられますように」

「そして願わくば愛の御力をもちまして」

「そしてねがわくば愛のおんちからをもちまして」

「王妃殿下のごとき絶世の美女を娶れますように」

「おじいさまのように、おばあさまのような最高のお嫁さんとむすばれますように」

「菖蒲ちゃんのような世界で二番目の美女でも構いません」

「あやめちゃ……婆や、そんなの、このお話のどこにも出てこなかったように思うんだけど」

「えへへ?」



これで全部、おしまいです。

さあ、眼を閉じて、もう寝ましょう。

良い夢たくさん見れるよう。

素敵な未来が来ますよう。

おやすみなさい、またいつか。

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