婚約破棄? そうですか。でも良いのですか、そんなことをして。困るのはそちらなのですよ?
「君のような高貴さの欠片もないような女を妻にするなど、僕のプライドが許さない。そんな妻を貰っては、僕の勝ちまで地に堕ちてしまう。はぁ想像するだけでも恐ろしい」
私の婚約者ブルフェンはいつも口が悪い。
だからこそここまで言われてもさほど驚きはしなかったのだが。
「よって、婚約は破棄とする」
そう宣言された瞬間はさすがに驚いた。
だってこの婚約は——彼の家を救うための婚約だったから。
というのも、彼の実家には多額の借金があったのだ。それも、健全なところから借りたものではなく、危険なところから借りたものであった。それこそ、返済できなければ何をされるか分からない。
そんな彼の親に救いの手を差し伸べたのが、知り合いであった私の親だった。
私の親は借金返済を代わる。
その代わり向こうは息子を差し出す。
そういう事情もあって、私たちの関係は始まった。
だから本来彼から婚約破棄を言い出すことなんてできないはず。
それなのに、彼は平然と婚約破棄を告げた。
とはいえ私には彼に縋りつく理由はない。
よって、婚約破棄は受け入れることとした。
◆
あれから十年が経った。
私は実家で両親と三人で穏やかに生活している。
特別なことも刺激的なこともない毎日で、でも、だからこその幸福は確かに存在している。私はいつも、穏やかさの中にある幸福の欠片を見つけては、一人ふふっと笑みをこぼすのだ。
そういえば、ブルフェンとその家族はあの後大変な目に遭ったらしい。
婚約を勝手に破棄したことで借金返済をしてもらえないこととなったブルフェンたちは、裏社会へ引きずり込まれ、最終的には内臓を売り飛ばされることとなったそうだ。
◆終わり◆




