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婚約者の座は譲って差し上げます、お幸せに (後編)

「そうね、そうしましょう」

「うん。ごめん……ありがとう、助かるよ」


 彼は世のことはいまいち分かっていない人。それはこれまでにも何度か感じたことがある。だから、今の彼も、婚約破棄というものの本当の意味を理解してはいないのだろう。私から離れられる、彼女の方へ行ける、くらいにしか考えていないのだろう。でもそうではない。支援金のこととか、慰謝料のこととか、そういうことも色々絡んでくる。



 ◆



 私は婚約破棄の手続きに進んだ。


 彼も同意してくれ、手続きは比較的スムーズに進んでいく。そういう意味では、彼のよく分かっていない部分が役立ったのかもしれない。何にせよ、ごねられなかったことは幸運であった。


 そして、彼には慰謝料の支払いが課された。


 凄まじい大変な罪を犯したわけではない、という認識で、慰謝料の額はそれほど多くはなかった。だが、私としてはそれでも構わない。お金を儲けたくてこんなことをしているわけではないから。慰謝料など、気持ち程度で構わない。何なら限りなく少額でも構わないくらい。


 彼は慰謝料を支払ってくれた。

 仲良くしていた彼女からお金を借りて、私への慰謝料を払ったらしい。


 彼女も災難だっただろう、男から金をもぎ取られるなんて。そんなこと、夢にも思っていなかっただろう。けれども仕方のないことだ。婚約者がいる人に手を出したのが悪いのだから。


 損したくないなら、ややこしいことに巻き込まれたくないなら、婚約者がいる人になんて手を出さなければ良かったのだ。そうすればこんなことにはならなかった。余計なことしなければ、慰謝料を代わりのような感じで支払わされることもなかった。


 すべての原因は、彼女が他人の男に手を出したこと。


 自業自得だ。


 色々揉めるかと思っていたが、その辺りまでは順調だった。慰謝料もきちんと支払ってもらえたし、特に問題はなかったし。


 だが、支援金をとめるという段階で、問題が起きた。


 彼とその母親が「支援金をとめるのはやめてほしい」と直接訴えに来たのだ。


 父親が対応し、丁寧に説明し頼みを断る。関係がなくなる以上支援を続けることはできない、と、父親ははっきり述べた。が、彼とその母親はなかなか帰らず。しまいには、支援を続けると言ってもらえるまでここに居座る、などと言い始める。


 どうしようもなくなったので、父親は治安維持組織へ連絡。


 無理矢理に近い勢いで家の中へ入ってきてしかも立ち去ってくれない、ということを治安維持組織の人に伝え、二人を強制的に連れていってもらった。



 ◆



 支援金はとめることとなった。


 何も珍しいことではない。私と彼の縁が切れるのだから、当然のことだ。今後他人になる相手のためにお金を出す必要なんてあるはずもない。何か特別な理由があるなら話は別だけれど。特別な事情がないのに、婚約破棄後も支援するなんて、そんなことをする義務はこちらにはない。


 それからもしばらく、彼の母親は訪ねてきた。


 面倒臭いので対応したくない。そこで少し無視していると、門を強く叩いたり怒鳴ったりし始める。行動に気づいた近所の人が治安維持組織に通報することも少なくはなかった。


 そういう時には、私たちは近所の人に謝った。

 理解してくれる人が多かったので、そこはありがたかったと思うし、感謝している。


 拘束されること解放されることを繰り返していた彼の母親は、ある時うちの門を壊し、捕まった。その拘束期間中に心を病み、そのまま病院に入ったらしい。その後のことは知らない。


 ちなみに、婚約者だった彼はというと、あの時の彼女と結婚したらしい。


 幸せな夫婦生活を営み、子どもも生まれた。

 だが、幸福な二人を悲劇が襲う。

 子どもを抱いて散歩している最中、彼がうっかり子どもを落としてしまったのだ。しかも、橋の下に。


 妻は激怒。

 二人は離婚したそうだ。



◆終わり◆

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