78/191
婚約破棄されたくらいで泣きませんから。
「君との婚約を破棄とする!」
ある日突然そんなことを言われてしまった。
婚約者ヴェルチから。
「そうですか、分かりました。では、今日はこれで失礼させていただきます」
「お、おい! それだけかよ!」
「え?」
「婚約破棄されたんだろうが、分かってんのか!?」
何を狼狽えているのか。
理解できない。
「泣けよ! 泣いて謝れよ!」
「すみませんが意味が分かりません。……失礼します」
なぜ婚約破棄されたら泣かなくてはならないのか。
もはや謎でしかない。
◆
あれから数年、私は今、この国で一人目の女性学者として働いている。
色々大変さはあるけれど、それと同じくらい喜びだってある。嬉しいことも少なくはない。忙しくても、充実感がこの胸を満たしてくれているから、いつだって私は幸せだ。
そういえば、これは最近聞いたのだが。
ヴェルチはあの後一人の女性と結婚したそうだが、結婚して一年も経たないうちに喧嘩が絶えない家庭になってしまい、一年以内に離婚したそうだ。
また、息子夫婦の不仲を悲しんでいた彼の母は、ヴェルチの離婚の直後に吐血し亡くなったらしい。
◆終わり◆