薬屋の娘ですが、このたび婚約破棄されました。ということですので、これからは好きなように生きさせていただきますね
「お前との婚約は破棄とする」
足を組んで一人用ソファに腰掛ける銀髪の男。
彼こそが私の婚約者ファブル・ディスタンス。
「婚約破棄、ですか?」
「あぁ」
彼はいつだって重要なことを唐突に言い出す。
今回の話もまた例外ではない。
「薬屋の娘なんぞ選ぶんではなかった。正直、そう後悔している」
「では失礼しますね」
「あぁ、さらば」
「さようなら、ファブルさん」
こうして私はファブルとは別れることになった。
婚約がなくなってしまったことは残念だが、それも運命だろう。運命が、彼と共に生きるべきではない、と言ったのだろう。ならば、敢えて無理をすることもないし、定めに抵抗することもない。
私はこれからは好きなように生きよう。
◆
ファブルとの婚約破棄、あの一件から数年が経った。
私は今、この国の王子の妻となっている。
何があったんだ、と驚かれるだろうか。いや、私自身、こんなことになるとは夢にも思っていなかった。王子と結婚、だなんて。ただ、これも運命だったのか、とは思うこともある。
ちなみに、ファブルはというと、あの後資産家の娘と結婚したそうだ。しかしその女性は家事など一切しないうえ凄まじく気が強くことあるごとに喧嘩を売るような人で、あっという間に二人は離婚となってしまったそうだ。
◆終わり◆




