私のすべてを奪いとって生きてきた妹、さぁ、今回も私のものを奪いとりなさい!
私には三つ年下の妹がいる。
やや地味めで平凡な容姿の私とは違って彼女は可憐な容姿を生まれ持っていた。
それなのに彼女はいつも私を羨んで。
私が手に入れたものすべてを奪おうとしてくる。
まったくもって理解できない。
妹の方が良い容姿を持っている。そういう意味では彼女の方が恵まれているのだ。彼女はそれを活かして幸せに生きてゆけば良いではないか。地味に生きている私のことなんて放っておいて、華やかに生きてくれればそれでいいのに。
けれども、ついに、その特性を活かせる時が来た。
というのも、私の婚約者となった男性フリューギットがいろんな意味で問題のある人物なのだ。
フリューギットはとにかく高圧的で、いちいち物の言い方が感じ悪い。
さらに、女性が意見を述べるという行為自体を極端に嫌っており、こちらが少しでも肯定以外の何かを言えばすぐに怒り出す。そして、意地でもこちらに謝らせようとする。
彼は女性を虐げるためならどんなことでもする。
酷い言葉だって使う。
「ねぇねぇお姉様! フリューギット様とはどんな感じですの?」
……やはり来たか、妹。
「そうね、楽しくやってるわよ」
私が手にしているものはすべて奪いとりたい妹のことだ、私の婚約者だって奪おうとするだろう。
悪いがその特性を利用させてもらう。
「まぁ! それは素敵ですわね! あぁー、わたくしも憧れますわー」
「きっといい人に巡り会えるわよ」
「ありがとう、お姉様」
そんな会話をした日から数週間。
私は両親に呼び出された。
「話って何?」
「急に悪いな。婚約者のことで話があったんだ」
少し気まずそうな顔をしている父。
「フリューギットのことだが」
「彼がどうかしたというの?」
「彼の婚約者の座に妹を座らせることにした」
……よし!
「それは……私と彼の婚約は破棄となるということ?」
「あぁそうだ。すまないが」
「そう……残念だけれど、分かったわ」
「怒らないのか?」
「怒る? まさか。私だって可愛い妹には幸せになってほしいのよ」
この会話の後、私とフリューギットの婚約は破棄となって。そうして空いた枠にパズルのピースをはめこむように、妹がフリューギットの婚約者となった。
「お姉様……本当にごめんなさい、奪ってしまって……」
「いいのよ、譲るわ」
「わたくし、いつも、男の人に惚れられてしまいますの……罪深いですわ……」
「いいのいいの。本当に気にしないで」
何もかも思い通り。
そして、これを機に、私は家から出て行くことにした。
◆
あの後私は親友の家へ行ってしばらくそこで暮らした。そして、彼女の紹介で知り合った青年と親しくなり、最終的には彼と結婚した。ちなみに彼は花屋を営む家の一人息子である。
これは後に噂として聞いた話なのだが。
妹は、フリューギットと同居し始めるや否や、大喧嘩を繰り返したらしい。時には近隣から苦情が来るほどの口喧嘩を行っていたとか。そんなことを繰り返しているうちにフリューギットは手を出すようになったらしくて。最終的には殴り合い蹴り合いのような喧嘩にまで発展していたそうだ。
そんなある日の喧嘩で、妹は胸を蹴られ、それが原因となって亡くなってしまったそうだ。
◆終わり◆