国護りの聖女と呼ばれていた私は王子から婚約破棄を告げられたので国から去ります。
「聖女ウィリア。もう君とは生きていけない。よって! 本日をもって婚約は破棄とする!」
王子ヴェルリッツの宣言が響く。
この婚約は、最初から上手くいくはずのないものだった。いや、正確には、私がそう思っていた、だが。だがそれは杞憂とはいかず。私の勘は不幸にも間違っていなかった。私の想像は外れなかった。
私と彼が婚約したのは、私が『国護りの聖女』だったから。
私がそれであると判明した時、ヴェルリッツの父親である国王が私のところへ来て、息子の妻になってほしいと言ってきたのだ。
国王に頼まれれば断ることもできず。
私はその頼みを受け入れ、第一王子ヴェルリッツと婚約した。
「婚約破棄、ですか……。これまた急ですね」
「もう限界だ」
「せめて理由だけでも教えていただけませんか」
「俺には愛する人がいる。理由はただそれだけだ。それ以上でもそれ以下でもない」
ヴェルリッツの視線は冷ややかだった。
「そうですか……分かりました」
これは多分何も言っても無駄なやつだ。
「では失礼します」
「あぁ。聖女だか何だか知らんが不愉快だ、さっさと出ていってくれ」
そんなことを言うなら、最初から、婚約なんて断ってくれれば良かったのに……。
こうして私たちの婚約は破棄となる。
その後私は隣国へ移住した。
◆
隣国へ引っ越した私は、孤児院に通い、子どもたちと触れ合うようになった。
その中でたくさんのものを得た。
特別な力なんてなくてもいい、細やかな幸せがあるだけで、私は幸福に生きてゆける。
この道を選んだことに後悔はない。
そういえば。
ヴェルリッツたちの国は私が去った後いくつもの災難に見舞われ崩壊したと聞いている。
私が国から去ったちょうどその頃、三つ同時に台風がやって来て、大地を荒らしていった。そして、その直後に大地震が起き、多くの民が家を失うこととなってしまった。詳しくは知らないが、その他にも多くの不幸が重なったようで。飢え死にする民が大量に発生してしまう。
人々の怒りは王族へと向かうこととなった。
災害や飢えで大切な人を亡くした者たちの怒りというのは凄まじく。彼らは武器になりそうなものをそれぞれ手にして一気に城へと攻め込んだそうだ。城には兵もいるが、数に違いがあり過ぎて、もはや戦いにもならず。怒る国民を恐れた兵の多くは国外に逃げたらしい。
そして、王族は皆、国民たちによって拘束された。
国王は拘束され便利に使われたそうだ。王妃と王女は裏市場に売られ、王子は処刑され晒された。その王子の中にはヴェルリッツも含まれていたとのことだ。
◆終わり◆