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いいことしようぜ、ですって? まぁ好きにすれば良いですけれど……今あるものすべてを失うと理解してなさってくださいね。

 私の婚約者でもある彼、エーベルバッハは、少し前から別の女性と濃厚に関わっている。

 それを私は察していた。

 実際にそういう光景を目撃したというわけではないのだけれど、それでも、私には確信があったのだ。


 彼は私を想ってはいない。


 少なくともそれは確か。



 ◆



 ある日のこと、ちょっとした用事があってエーベルバッハの自宅へ行くと、廊下にいる彼が人影を身体に寄せているのが見えた。


 嫌な予感はしたが、さりげなく接近してみる。


 エーベルバッハの傍にいるのは一人の女性。

 やはりか、と思いつつ、その凹凸のある影を物陰から見つめる。


「なぁなぁ、いいことしようぜ」

「んもぉ。気が早いわねぇ」

「いいだろ? もうだいぶになるしさ」

「でもぉ、婚約者がいるって言ってなかったぁ?」


 するとエーベルバッハはハッと笑みをこぼす。


「いいんだよ、あんなつまらん女は無視しときゃ」


 つまらん女、か。


 彼にとってはそうなのだろう。それは彼の感覚の問題だからべつにどうこう言う気はない。感覚とは人によって違って当然なもの、私と彼の物事に対する捉え方が違っていたとしてもなんらおかしな話ではない。


「本気で言ってるのぅ? 怒られなぁい?」

「あんなやつに気遣いは要らねーよ」

「んもぉ、駄目よぅそんなのぉ」

「いいからいいから。早くいいことしようぜ。あ、部屋に来いよ」

「あーん、もぉ、仕方ないわねぇ」


 二人が歩き出した瞬間、私は彼らの後ろから登場する。


「エーベルバッハさん、こんにちは」


 笑顔で声をかける。


「なっ」


 顔を強張らせるエーベルバッハ。


「そちらの方はご友人ですか?」

「あっ……あ、あぁ、そうだが」

「いいことって何をなさるのです? よければまぜていただけませんか?」

「んぁっ、ま、ままま、まぜるのは、そっ、そ、それっ、それは、すっ、少し、む、むむ、りっ、無理なっ、そ、そそそそ、そっ、そうっ、そっ、相談っ、だ」


 エーベルバッハはかなり動揺している様子。


 まさか本気で気づかれていないと思っていたのだろうか。

 だとしたらなんてお気楽な人。


「慌てた顔をなさっていますが大丈夫ですか?」

「あ、あ、ああああ、あ、あ……いや、その、その、あのっ……こ、これっ、は、何でもっ……な、ななななく、て、だな……こ、恋人などで、でででっ……は、決っしって……」


 私は柔らかく微笑む。


「ご心配なく。恋路の邪魔はしませんよ。ただ婚約破棄させていただくだけです、どうかお幸せに」


 こうして私は去った。


 それから私は淡々と手続きを進め、慰謝料の請求をし、婚約は破棄とした。


 私はそれからしばらく恋はしなかった。しかし、数年が経った頃、偶然知り合った人の中に親しい人が現れて。その人と段々仲が深まり、最終的には結婚した。


 今は子どもも生まれ、ありがたいことに、とても幸福な日々を生きている。


 ちなみにエーベルバッハはというと。


 婚約破棄後あの時の女性にプロポーズしたそうだが「大慌てでまともに喋ることができなくなるような情けない人は無理」と心ない言葉を投げられ断られてしまったらしい。


 拒まれたショックで激昂した彼は、その場で女性を殴り続け、殺害してしまったらしく。

 通りかかった治安維持官によって現行犯逮捕されてしまったそうだ。


 あぁ、恐ろしい恐ろしい。



◆終わり◆

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