婚約破棄されたくらいで折れる私ではありません! 〜私は幸せにならせていただきますね〜
それはある快晴の日のこと。
婚約者ヴィレル・ボーガフォンに呼び出された。
彼が私を呼び出すというのは珍しいことだ。それゆえ不気味さは凄かった。きっと良いことではないだろうな、という予感もあって。けれども断るのも変なので、私は仕方なく彼のところへ向かった。
すると案の定。
「今日は婚約破棄を言い渡すために呼んだ」
ヴィレルははっきりと述べた。
「婚約破棄……ですか」
「あぁそうだ」
「唐突ですね。何があったのです……?」
「理由など必要ないだろう」
いやいや、理由は必要だろう。
「理由はないのですか?」
「そこまで聞くなら仕方ない。婚約破棄の理由、それは、君が必要なくなったから、だ」
必要なくなった? 私のことを物みたいに言うのね。使用済み、みたいな言い方、どうも気に食わないわ。だって私は物ではないのよ? 人間よ? それをそんな風に言いそんな風に扱うなんて。
「そうですか。分かりました、では」
私は彼の前から去った。
以降、私とヴィレルが直接顔を合わせる機会はなかった。
けれどもそれはそれで良かったと思っている。だって、私としてももう会いたくはないから。婚約者同士という関係は終わったのだから、もはや会う必要だってないだろう。
その後私は父親の知り合いの領地持ちの家の当主に紹介され、彼の息子である青年と結婚。
平凡ながら確かにある幸福を手に入れることができた。
私は今、とてものんびりと、毎日を穏やかに過ごせている。
一方ヴィレルはというと、あの後幸せを掴むことはできなかったようだ。
わりと女性受けは良い彼だが、女性受けが良いがために彼は悲劇に見舞われることとなった。
というのも、恋人だった女性が振った後に豹変し、彼を執拗に追いかけ回すようになったらしいのだ。
その女性は既に壊れていて。
ヴィレルを愛するあまり、彼を殺してしまおうとしたのである。
そして作戦は成功した。
ある快晴の日の夕暮れ。
ヴィレルは帰宅途中に女性に刃物で刺され、そのまま死亡したそうだ。
◆終わり◆