失礼な人のことはさすがに許せません (前編)
「パッとしないなぁ、ははは」
初めて会った時、アルタイルは何の躊躇いもなくそんなことを言ってきた。
今も鮮明に覚えている。
彼は親が勝手に決めてきた私の婚約者。親から受けた説明によると、彼の実家が経済的に破滅しかかっていたところを助けたお礼として、婚約が決まったらしい。
だから、彼と私が互いに想い合って婚約したわけではないというのは、一つの事実である。
「僕は君のことが好きで婚約したわけじゃないから誤解しないで」
アルタイルは顔を合わせるたびにそんなことを言ってくる。
事情は私だって理解している。だから誤解なんてするわけない。そもそも、いきなり「パッとしない」なんて言ってきた人に特別な感情を抱く人なんてかなり少数だろう。当然私も多数派に含まれている。私だって、失礼なことを平気で言ってくるような人となんて親しくなりたくない。勘違いしないでほしい。
婚約者となったなら普通は少しでも近づけるよう努めるもの。けれども、相手が特別失礼な人なら話は別。親しくなれるよう努力するのも、関係を築こうと頑張るのも、最低限の礼儀があってこそ、というもの。
相手が失礼なことばかり言ってくるとなると、話は変わってくる。
向こうが喧嘩を売ってきているのに頭を下げ続けるほど広い心は持っていない。
とはいえ、ちまちまとした嫌みやら何やらを理由に婚約破棄するとなると厄介だ。理由が小さ過ぎるから。一緒にいているところを知人に見られたら婚約者であることを知られないよう必死にごまかす、友人といる時に私と出会うと無視してくる、などという彼の悪行に罪がないはずはない。が、何も知らない他人には、夫婦間のいざこざのようなものだろう、と解釈されてしまいかねない。
そんな時だ、私がアルタイルの問題行動を知ったのは。
最近アルタイルがある女性とよく会っているらしい。周辺の人たちの話を聞いている感じだと、以前から親しかったわけではないようだ。
私は直接本人に聞いてみることにした。
録音のための機械を仕掛けながら。
「アルタイル、最近女性と会っているらしいわね」
「嫉妬かい?」
「会っているという噂は事実なのね」
「うんそうだよ。だから何? 君みたいな女性じゃ満足できないもの、仕方ないんだよ」
アルタイルは別の女性と関わりを持っていることを隠そうともしない。いや、隠すどころか、事実を明かしたうえでさらに嫌みをぶち込んでくる。迷わない、躊躇わない、度胸だけは凄いと思う。
「そもそも、僕、君みたいな地味な女性は嫌いなんだよね。もっと華がある人がいいんだ。まぁ事情が事情だから仕方なく受け入れているけど、本当だったら君みたいな女性と婚約なんて絶対しないんだよね」
……よくそんなことが言えるわね。
苛立ちが胸の内を満たす。けれどもそれを露わにはしない。ここで感情的になっても何の意味もないから。冷静に、冷静に、録音を続けるのだ。非道な発言の数々を録音できれば、私は剣を得たようなもの。今はただ、そのために落ち着いて対応する。