真実の愛? 馬鹿げていますね。けれども構いませんよ、婚約破棄なら受け入れて差し上げます。
私、リシリアは、ある日突然告げられた。
「真実の愛を見つけてしまった。だからもう君とはいられない。婚約は破棄とさせてもらう」
婚約者ベルーナはそれなりに常識人だと思っていた。だからこそ、こう告げられた時は驚いた。真実の愛か何か知らないが、約束を破るような人とは思っていなかったから。
「本気なの……?」
「あぁもちろん。本当のことしか言わないさ」
ベルーナが言うには、運命の人に出会ってしまったらしい。
相手女性の名はエメリルリアというそうだが。
彼女に出会った瞬間世界が変わり、また、彼女と親しくなるにつれて真実の愛というものに気づいたそうだ。
そもそも、婚約者がいる身で他の女性と親しくしているなんて論外なのだが。
「そう……でもいいの? そちらの都合での婚約破棄となれば慰謝料を支払ってもらうことになるのよ。サインしてもらったあの書類にそう書かれていたでしょう」
彼は「なっ……」と驚くような顔をした。
けれども私にとってはそんなことは関係ない。
「そういうことよ。……ではこれで失礼するわね」
こうして私たちは別れた。
その後直接顔を合わせることはなかった。
私はベルーナから慰謝料をもぎ取り彼の前から去って、後に、前から知り合いで仲の良かった領地持ちの家の次男と結婚。
おかげで今は穏やかに暮らせている。
一方ベルーナはというと、あの後結婚相手のことで両親と大喧嘩になり、その時に父親を殺してしまったらしくて。殺人の罪、そして何より思い親殺しの罪を犯したとして、牢にぶち込まれたそうだ。そして今もそこで暮らしているらしい。
◆終わり◆