魔法使いなだけで婚約破棄されるなんて、正直驚きました。
生まれつき魔力とそれを使う魔法使いとしての才能を持っていた私は、まだ幼い頃に魔族とのハーフである師匠に弟子入りすることになり、そこで魔法使いとしての基礎から何まで勉強してきた。
だが年頃になると両親は急に言っていたことを反転させた。
私に結婚を求めるようになったのだ。
これから魔法使いとして生きていこうと思っていたちょうどその時に、私は、両親が選んだ男性ポルクレートと婚約することとなった。
魔法使いとして世のため人のため働こうと思っていたのに……。
強制的に婚約させられたことへの不満はあった。
でも、働くだけがすべてではないし結婚した先でもできることはあるかもしれないから、と自分を納得させて……ポルクレートと共に生きていくということに納得できるよう、自分なりに努力してきた。
けれど、ある日のこと。
「何でしょうか、用とは」
「婚約に関することだ」
「はい」
「君との婚約は破棄とすることにした」
ポルクレートは豪華な椅子に座って足を組んだまま言葉を続ける。
「君は魔法使いを目指していたそうだな」
「はい、以前ですが」
「魔法使いなどという怪しいものに憧れ目指そうとする女を我が家に受け入れることはできない。よって、この婚約は破棄とする」
彼は冷淡そのものだった。
「そういうことだ、異論は認めない」
私は何とか理解してもらおうと思って丁寧に説明しようとした。が、ポルクレートは説明すらまともには聞いてくれなかった。彼は魔法使いという存在そのものを良く思っていないようで、しまいには激怒までされてしまった。
魔法使いなど二度と口にするな、とまで言われてしまい。
結局私はそのまま彼の前から去るしかなかった。
魔法は使えてもその他の面ではただの年頃の娘でしかない私には何もできなかった。
その後一旦実家へ戻ることとなったのだが、事情を話すと両親にまで怒られてしまった。
二人は私を信じてくれない。だから、ポルクレートが婚約破棄したことも、彼へ怒りを向けるという展開にはならず。二人はむしろ私を悪く思っているようだった。私に非があったからそんなことになったのだろう、というようなことばかり言われてしまった。
いつだって私が悪者だ。
私は衝動的に家出した。
絶望して「もう希望なんてないから死のう」と思っていたその時、背後から一人の男性が現れた。
「そこで何をしてる?」
男性は、師匠だった。
「あ……!」
「どうしてこんなところに」
かつて世話になっていた人。
「実は……」
私は彼に駆け寄った。
ただ話を聞いてほしくて。
私は師匠のところへ戻ることにした。
もう実家にもいたくなかったからだ。
ポルクレートには切り捨てられ、両親からはありもしないことで責められる、ならばもうそのどちらとも関わりたくない。
そんな私が選んだのは、師匠のところにいるという選択肢だった。
で、彼の助手をすることになった。
「あの花は? どこへやった」
「あっちの棚です!」
「三本使う、出しておいて」
「はい!」
毎日色々忙しくはあるが、不幸かというとそんなことはない。
これからもこんな風に生きていけたらいいな。
そう思いつつ前へ進み出す。
◆
七年後。
私と師匠は、めでたく、今年最も世のため人のため活動した魔法使いを国が表彰する賞である『最高活動賞』を受賞した。
ここまでの道のりは長かった。
ポルクレートに妨害されたこともあった。
いやがらせもあった。
けれども二人乗り越えて、何とか、ここに至ることができた。
本当のことを言うなら、べつに賞が欲しかったわけではないのだけれど……。
けれども社会に貢献できたことは良かったと思う。
ちなみに賞金は寄付に使った。
大金を持っていても危険度が増すだけだからである。
私はこれからも師匠のもとで活動を続けようと思う。
ちなみにポルクレートはというと、ある時、私と師匠を暗殺するため刺客を送り込んできた。だがその刺客は師匠が拘束、話を聞けば依頼人がポルクレートであることが判明。個人で刺客のような者を雇う行為はこの国では禁止されているため、師匠はその件を国へ伝えた。
で、それによってポルクレートは犯罪者となった。
最初は否定していたようだが、次第に心が折れ、やがて認めたようであった。
ポルクレートは今は牢の中で寂しく暮らしていると思われる。
◆終わり◆