婚約者の彼と同居することになりまして。~お母様の虐めが酷い、最低ですね~
私メニア・ポポタスは、比較的新しい領地持ちの家であるボッツ家の息子であるコーラルン・ボッツと婚約した。
そして、婚約を機に、私は彼と彼の母親が住む家へ行くこととなった。
彼側からの強い希望であり、断ることはできなかったのだ。
しかし私を待っていたのは地獄――コーラルンの母親が私を執拗に虐めてきたのである。
コーラルンの母親は最初から私を良く思っていなかったようで、同居開始のその日から、ことあるごとに嫌みを言ってきた。
私が一行動すれば十嫌みを言う、それが彼女の性質で。彼女の頭には私を虐めることしかないかのようであった。正直、彼女は人間ではないように思える。そのくらい、彼女は悪意に満ちていた。
虐め行為は基本的にはコーラルンがいないところで行われたのだが、時には彼がいるところでも行われた。
彼は母から言われたことをすべて信じる、だから母親としてもやりやすかったのだろう。
で、次第に堂々と行われるようになっていく。
コーラルンには適当に言い訳しておけばいい、と母親が気づいたからである。
だが私は抵抗しなかった。
ただ耐えた。
ただし、虐めの証拠だけは着実に集めながら。
そして。
「コーラルンさん、私はもうここではやっていけません」
「え? どうして?」
「私、貴方のお母様から虐められています。なのでもうここで生きていくのはやめることにしました」
首を傾げおかしなものを見たような顔をするコーラルン。
彼は母の言葉を信じているから、虐めのような行為の原因はすべて私にあると当たり前のように思っているのだろう。
「婚約は破棄とします」
私は宣言した。
「そんな勝手な! 困るよ! 正当な理由もなく!」
「正当な理由ならあります」
「え。……嘘で脅すつもりかい? そんな酷いことをするなら、ママを呼ぶよ」
そんな短絡的な脅しには屈しはしない。
「脅しているのはそちらでしょう!!」
少し間を空けて。
「虐めを受けていた証拠をたくさん持っています。それらが、この婚約破棄には正当な理由があると、皆に伝えてくれるでしょう」
もう貴方とは生きない。
「さようなら、コーラルンさん」
◆
その後いろんな手続きをしなくてはならずとても忙しかった。が、忙しいことよりも自由になれそうという嬉しさが勝っていたので、忙しさもさほど苦にはならなかった。むしろ活き活きと動くことができていたように感じる。
コーラルンの母親は私を虐めた事実をなかなか認めなかったが、証拠たちの存在もあり、最終的には認めさせることができた。
もちろん、償いのためのお金も支払ってもらった。
ある意味私は彼女に勝ったのだ。
虐められはしたが、それに屈しはしなかった。
◆
一連のことが終わってから四年半。
私は今、母親の親が持っていた森の奥の別荘に住み、自然の中で穏やかに暮らしている。
朝から晩まで自由。
誰かに何か言われることはないし、もちろん、虐められることもない。
ここには穏やかな幸福が確かにある。
ちなみに最近はペットの犬の毛づくろいをするのが一番の楽しみだ。
そういえば、先日、母親からの手紙を読んでコーラルンらのその後を知った。
彼は『婚約者が虐められているのを見て見ぬふりし助けようともしなかった酷い男、しかも最終的には証拠を集めていた婚約者から婚約破棄されて情けない』と評価されるようになり、これまでに築いてきた社会的な良い評判を地に堕とすこととなったそうだ。
周囲からは冷ややかな視線を向けられることも増え、友人も八割以上がさりげなく離れていったとのこと。
で、コーラルンの母親はというと、会長を務めていた『人権を大切に思い考える会』から関係解消を言い渡されたそうだ。
まぁそうなるだろう、というところだ。だって『人権を大切に思い考える会』の会長が他者を虐め抜いていたことが分かったのだから。笑い話にさえできないことだ。会としても、そのような人を代表の位に置いておくことはできないだろう。
今、仕事を失った彼女は、家にひきこもって、毎日のように息子に当たり散らしているらしい。
ま、内輪でやってください――そういう思いでいる。
◆終わり◆