特殊な力を持って生まれた私は婚約破棄を告げられ城から追放されましたが、ちょっとした出会いから幸せを掴めました。
それこそ一般人では考えられないような魔力とそれを使う才能を持って生まれた私は、まだ幼いうちに実の親とは引き離され、国の施設で育てられました。
そして、年頃になると、国王の息子である王子ブルクリと婚約することとなったのです。
しかし……。
「君のようなどこの出かも分からない女性を妻とする気はない」
ブルクリは私を良く思っていませんでした。
私が一般人の子であることが気に食わなかったようです。
「よって、婚約は破棄とする」
その日、彼は、一方的に私を切り捨てました。
そして、親である国王に相談もせず、彼は私を城から追い出したのです。
これからどうして生きてゆけば良いのか……私はただただ困り果ててしまいました。
私はこの先もずっと城の中で生きてゆくものと思っていました。国王もそう言っていましたし。放り出される未来なんて想定していなくて、そのため、城の外で生きてゆくということに関してはほとんど何も考えていなかったのです。
城下町をとぼとぼ歩いていると。
「すみません、ちょっと良いですか?」
誰かが声をかけてきて。
「あ、はい。何でしょうか」
「あなた、王子さまの婚約者さまですよね? どうしてこんなところに?」
その誰かは……人間とは大きく異なった姿をしている生物でした。
猫と人間と獅子と鳥を融合させたような容姿の彼は魔族の族長でした。
名はゾクチーというそう。
彼は私に「捨てた人間に腹が立つなら、魔族のため生きてくれませんか?」と言い、先行きが見えず困り果てていた私はそれを受け入れました。
一人寂しく飢え死にするくらいなら。
魔族のところにでも行く方がまし、いや、その方が良い。
そう思ったのです。
その後私はゾクチーと共に魔族の国へ行きました。
◆
あのちょっとした出会いから数年が経ちましたが、私は今も魔族の国で穏やかに生活しています。
今ではゾクチーの妻。
彼とはとても仲良しです。
魔族の国、この国が、いつまでも平和で幸福であってほしいので、そのために私は力を使います。ということで、最近では、生まれ持った魔力を活用して皆のために動いています。腕力はなくとも魔力はある私にできることを考えて生きているのです。
そういえば、私が以前いた人間の国はというと、既に滅んだようです。
周囲の国から突然攻め込まれ、あわてふためいているうちにあっという間に占領されてしまった……ということのようです。
もっとも、この目で確認したわけではありませんが。
一般市民は殺されはしなかったようですが、国王は拘束され、ブルクリを含むその親族は処刑され晒されることとなったそうです。
話を聞けばとても恐ろしいですが……魔族の国の一員である私にはもはや関係のないことです。
私は今日も優雅にハーブティーを飲みます。
◆終わり◆