知らない女性といちゃいちゃしているところを目撃してしまったので、私は去ります。さようなら。
その日、私は見てしまった。
「ねぇねぇ~わたしのこと好きぃ~?」
「もちろん好きだぞぅ~」
「だったらもっとこっちへ来てぇ~」
「恥ずかしいなぁ~もう~」
婚約者ミルピンが私の知らない女性といちゃいちゃしているところを。
ちょっとした用事で彼の家を訪ねた。確かにこちらが思いついた用事で行った、だから彼も警戒していなかったのだろう。廊下でいちゃついているものだから、すぐに気づいてしまった。
「もっと近づいてぇ~?」
「あぁいいよぉ~」
「口移しでケーキが食べたいのぉ~買ってきてくれるぅ~?」
せめて室内でやっていてくれれば……。
いや、そんなことを言っても今さら意味はない。
こんな状況を目にしてしまったら、もう彼とは生きてゆけない。
たとえ彼の親が私と息子の結婚を強く望んでいても、だ。
「ミルピンさん、何をしているのですか?」
私は迷わず声をかける。
「あ……」
愕然とするミルピン。
見られると思っていなかったのだろう、恐らく。
「こ、こ、こここ……これ、は……」
「そのような関係の女性がいたとは知りませんでした。そこまで仲良しなら、邪魔してはいけませんので、私は去りますね」
「ち、ちがっ……」
「婚約は破棄です。さようなら」
私は彼に別れを告げ、そのまま去った。
ミルピンが別の女性といちゃいちゃしているのを見た日、私は彼に婚約破棄を告げた。
だってそうだろう?
あんなのを見せられてもなお共に生きるなんて、できるわけがない。
彼の両親はたくさん謝ってくれて少し申し訳なくは思ったが、それでも、彼との関係を維持することに関しては断った。
他の女性ともあそこまでいちゃつけるような人と生きるなんて無理だから。
◆
あれから数年。
私はミルピンではない男性と結婚し、現在は夫が営む店の手伝いを時折しながら暮らしている。
お互い人間なのでたまにはすれ違ったり喧嘩することもあるけれど、すぐに仲良く戻れるし、彼といると楽しいと思えるから幸せだ。
ちなみにミルピンはというと、私と結婚することで得るはずだった益をすべて失うことになったことで両親と大喧嘩になり、最終的には親から縁を切ることを言い渡されてしまったそうだ。
で、あの女性と結婚しようとするも、家から追放されていたために「娘を家から追放されるような人と結婚させることはできない」と女性の親から反対され、結局その女性とも結婚できなかったらしい。
その後彼の行方を詳しく知る者はいないようだが……物乞いのようなことをしているところを見かけたという目撃情報は一応数件あるらしい。
◆終わり◆