婚約破棄したからって私を不幸にできるわけではないのですよ? その辺りが分からないようですね。
「君みたいな人とはやっていけないよ。てことで、婚約は破棄な」
婚約者である彼ルストフは突如そんなことを告げてきた。
何ということのないありふれた日。
特に喧嘩したというわけでもなかったのだが。
「婚約破棄? ずいぶんいきなりなのね」
「泣いて謝るか?」
「いえ……というより、貴方は泣いて謝ってほしいのかしら」
「違う!! どうしてもというなら情けをかけてやってもいい、というだけだ!!」
急に怒らなくても。
「まったく、可愛くない女だ! どうしようもない、救いようがない。呆れた! 君みたいな人は婚約者に捨てられて泣いて暮らすといいよ!」
意味が分からないのだが。
婚約者に捨てられて泣いて暮らすといい、とか……なんのこっちゃらである。
婚約破棄された人が絶対不幸になると思っているのか? だとしたら彼の発言も分からないではないが。ただ、現実においてそうなるかというと、そうではない。もちろん不幸になる人もいるかもしれないが。全員がそうなるかというと? 確実ではない。
「そうですね、では、さようなら」
◆
あれから十年、私はこの国で初めてとなる動物園を設立し、今は忙しく働いている。
人と動物が触れ合う機会を作る。
その思いによって、この施設は完成した。
当然私一人の力ではない。賛同してくれた人たちや関係者など、多くの協力があって今日に至っているのだ。皆の力があり、協力があり、そこに自分の努力も加わって、この動物園は誕生したのである。
私が活動を始めてからというもの、ルストフはいつもつきまとい、私の悪口を言いふらそうとしたり私の行動を邪魔しようと妨害してきたりしていたが……その彼は先日ついに逮捕された。
動物園近くにある、公の場とされている中央公園。
そこを勝手に占拠して大声で捏造した私の悪口を叫んでいた彼は、通りかかった公園には入りたいおじさんと喧嘩になり、その際におじさんを殴ってしまって。
それによって拘束されることとなったのだ。
おかげで今は妨害されることもなくなった。
おじさんには感謝している。
私はこれからも動物園の営業を続けるだろう。
一方、ルストフは、これからもひからびた腐りかけの残飯のみを食べて長時間労働させられるのだ。
◆終わり◆