婚約破棄された私ですが惨めな人生は選びません!
私にはヤンババという婚約者がいた。
彼は整った容姿の持ち主で周囲の女性たちからの人気の高い男性であったが。
「貴様との婚約、本日をもって破棄とする!」
他の女性には優しく紳士的なのだが、婚約者である私にだけは心ない人であった。
なぜなのかはよく分からない。
もしかしたら外には良く内には良くない質なのかもしれない。
「あの……どうして、いきなり?」
一応尋ねてみると。
「はぁ? 何口を開いてやがる。黙れ、クソオンナ」
急に暴言を並べてきた。
疑問点をただ質問しただけ。それなのに『クソオンナ』とまで言われなくてはいけないのはなぜなのか。まったくもって理解できない。こちらは普通のことを普通に尋ねただけではないか。
「婚約破棄の理由は何かあるのでしょうか」
念のためもう一度質問してみるが。
「黙れ! うるせえ! 大人しく去るか泣いて謝るかしろ!!」
やはり結果は同じ。
よほど理由を説明したくないらしい。
「そうですか……では、去ります」
もはやヤンババに期待することなどない。
私はここで消えよう。
ヤンババに婚約破棄という形で切り捨てられた私は実家へ戻った。そこが唯一スムーズに戻ることのできる場所だったから。で、両親と姉と四人での生活を再開。ひとまず平穏を手に入れることができた。
◆
実家へ戻ってから数年。
オリベバという男性と結婚し子にも恵まれて家庭を築いている。
オリベバとの出会いは、私がよく通っていた町の書店。
彼もまたその書店へ来ていて。
最初はただの常連客同士でしかなく交流もなかったが、ある時私が棚から多くの本を落としてしまったのを見て彼が片付けを手伝ってくれ、それから関わるようになった。
で、私たちはいつしか結婚するに至った。
互いに本が好き。
それが大きな共通点で。
共通の趣味があることで、より一層、互いに理解しあえる気がする。
今は子の世話で忙しいが、いつかまたゆっくりと読書をしたい。
一方。
ヤンババはあの後女遊びが派手になったそうだ。
これは去年の時点で聞いたことだが、毎晩のように違う女性を家へ連れ込んでいたらしい。
私がいた時はそこまでではなかったことを思うと、婚約者がいるということで彼なりには女遊びを躊躇していたのかもしれない。
だが数ヵ月前、一夜限りの相手の女性に不治の病を移されたことで、女遊びはしづらくなってしまったとかで。
それからはストレスを発散するために酒を飲むようになり、みるみるうちに飲む量は増え、酷い時には酔っ払って家の周りで暴れまわることもあったらしい。
しかしその最期はあっけなく。
暴れている最中に転倒して後頭部を打ってしまった、という最期だったそうだ。
◆終わり◆