突然婚約破棄を告げられました。~それでも幸せは掴めましたよ~
「君との婚約は本日をもって破棄とする! いいな、伝えたぞ。君とはもう関わりたくない。泣こうが喚こうが無駄だ、もう二度と俺の前に現れるな!」
赤毛の婚約者ポインタスはある日突然そんなことを告げてきた。
しかも、人のいるところで。
わざわざ無関係の人がいるところで伝えなくても……と思う部分はあったのだが、まぁ、彼としては誰かがいるところで宣言したかったのだろう。
私に恥をかかせるためか?
現に今私は笑われている。
くすくす、という慎ましくもいやらしい小さな笑い声が聞こえてくる。
だがここで怒っては相手の思う壺。
「そうですか。承知しました。では、失礼しますね」
そう返し、私は彼の前から去ることを選んだ。
笑われたって気にしない。ポインタスの家の近く、どのみちここへ来ることはもうないのだから。私を馬鹿にして笑っている人たちとだって、きっともう会わないだろう。ここは私の活動地域から離れている。
ポインタスとも、彼の暮らす地とも、もうお別れ。
さようなら、だ。
ポインタスに婚約を破棄された日から数週間が経った頃、実家に戻っていた私は、ささやかなことから一人の男性と知り合う。
買い物中に出会った私たちは共通の話題を持っていたことから急激に親しくなって。
あっという間に昔からの親友のようになった。
そしてやがて婚約したいともちかけられる。
だが、その時になって、彼が異国の王子であると初めて知って……彼と行くならこの国を出ることになるのか、と迷っていると、こちらの国の人との関係は保っていても問題ないと言ってもらえて。
それで私は彼と共に行くことを決意した。
◆
あれから数年。
私は今、生まれ育った国を離れ、異国にて王子の妻として生きている。
こちらへ来てすぐの頃には色々苦労もあった。が、夫である彼がいつも傍にいて守ってくれたので孤立はせず、前向きになることができて。徐々に馴染み、今では敵対する人もほとんどいなくなった。今では皆から大事にしてもらえている。
そんな中でも母親との手紙の交換は続けていて。
最近、その手紙によって、ポインタスのその後を知った。
彼はあの後別の女性と婚約したらしい。が、その期間中に別の女性と関係を持ってしまい、その女性が腹に子を宿してしまったことで問題になったそうだ。
結局婚約者とは離れ子を宿した女性と結婚することを選択したそうだが、両方から金銭をもぎ取られることとなり、彼は資産の多くを喪失することとなってしまったらしい。
また、彼の親も息子の行いによって評判を下げてしまうこととなったらしくて。
近所の人たちからは冷ややかに見られるようになり、気まずくて、最終的には別の町へ引っ越したそうだ。
◆終わり◆