幼馴染みの言葉を妄信する婚約者が婚約破棄してきました。~私が守りたいのは名誉だけですので、あとはご自由に~
「聞いたぞ。君は僕の幼馴染みを陰で虐めていたそうだな」
婚約者ボルムンがある日突然そんなことを言ってきた。
それも怒ったような顔で。
「一体何のお話ですか?」
彼に仲の良い幼馴染みがいることは知っていたけれど、私はその人とは交流がない。ずっと前に一度彼の家の廊下ですれ違い、ちらりと睨まれただけの関係性だ。
「彼女から聞いたんだ、ずっと虐められていたと。驚いたよ。……君はそこまで心が腐っているんだな」
はい?
意味が分かりませんが。
「待ってください! 私たちはそこまで知り合いではありません。虐めていたこともありません」
「嘘をつくとは、何と愚かな」
……話になりそうにない。
きっとその幼馴染みが作り話でも吹き込んだのだろう。
まったく、厄介なことをしてくれる。
対処するのが面倒臭いではないか。
「しかも口止めしていたそうだな。まったく、どう育てばそんな酷いことができるんだ」
「その話は幼馴染みの方から聞かれたのですか」
「あぁ、そうだ」
「ならそれは嘘です! 作り話ですよ。それとも、虐めを証明する根拠が何かありますか?」
するとボルムンは黙ってしまった――が、少しして。
「根拠? そんなもの必要ない! なぜなら彼女が嘘をつくことなど絶対にないからだ! 彼女は嘘など言わない、彼女は素直で優しいんだ!」
重度に洗脳されているようだ。
「ま、そういうことで……君との婚約は破棄とする!」
彼はそんなことを言って、私との関係を投げ捨てた。
なんて憐れな人。
そんなばればれな嘘さえ見抜けないなんてみっともない。
その後私は婚約破棄を受け入れることとしたのだが、名誉を守るために『虐めをした』ということだけは認めなかった。
だが当然だろう。
実際何もしていないのだから。
そうして抗戦しているうちにボルムンの家で働く人などが「そんな場面を見かけたことはない」「彼の幼馴染みは前にも嘘をついたことがある、しかもそれによって仕事を辞めさせられた者もいる」というような声を挙げるようになり、やがて、幼馴染みの証言は事実とは認められない、という判断が下された。
私の名誉は傷つけられず済んだのだった。
◆
あれから数年、私はこの国の第二王子である青年と結婚し、今は王族が暮らす城にて生活を営んでいる。
とはいえ、この国の王族は贅沢をしないので、食べるものに困りはしないものの比較的一般人に近い生活をすることができている。
また、王族の出でない私が馴染みやすいようにと皆が心を向けてくれることが、非常にありがたい。
ちなみにボルムンらがどうなったかというと。
ボルムンはあの嘘つきな幼馴染みと結婚したそうだが、結婚後に彼女が過去の犯罪歴を隠していたことが判明したらしい。それによって両家の関係が壊れてしまって。それでも「彼女と離れたくない」と主張するボルムンは、親から勘当を言い渡され、縁を切られてしまったそうだ。
その後彼は幼馴染みとその親戚の中で暮らそうと決意するが、それ自体が実は罠で――結局彼は幼馴染みのいくつかの罪を押し付けられることとなってしまったらしい。
それによって犯罪者となったボルムンは、現在も牢屋に入れられているそうだ。
◆終わり◆