表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/191

婚約破棄されて実家へ戻ったところ母親に激怒され叱られたので、隠していた力を使うことにしました。

 私は昔から何かとついていない。


 いちゃもんのようなことばかり言ってくる母親、家族に無関心な父親、裕福ではあったが家庭環境は何とも言えないものであった。


 しかもよく分からない魔力なんてものまであって、基本隠しているのだが、そのことを知った人からはいつも不気味がられる。


 そして今。


「貴様との婚約は破棄とする!」


 婚約者ナババスから切り捨ての一手を打たれてしまった。


 彼は整った容姿の持ち主で、彼と婚約することになったのは、私の母親が彼を気に入ったから。これまでもずっと私をいいなりしてきた母親は、好みであった彼に近づくため、私を使った。娘を結婚させることで彼と親しくなろうとしたのだ。


 そういう意味では彼もまた被害者……なのかもしれないけれども……。


「貴様の嫌いなところを十挙げよう!」


 正直、彼は酷い人だと思う。


「ひとつめ! 可愛げがない! ふたつめ、愛想笑いが下手! みっつめ、顔が平凡! よっつめ……忠実でなく男を敬わない! いつつめ! 俺に尽くさない! むっつめ、凹凸があまりない!」


 もういいよ……、と言いたい気分だ。


 彼が私を嫌っていることは分かった。

 わざわざ詳しく言わなくていいのに。


「ななつめ! お上品な振る舞いが完璧でない! やっつめ……ダサい! ここのつ……女らしい動きをしない! そして最後は……好みでない!」


 こうして私はナババスに捨てられてしまったのだった。


 これからどうしよう……と思いつつ、実家へ帰るのだが……。


「どうしてそんなことになったのよ!! 理解できない、どうしてか説明しなさいよ!! どうせアンタがくだらないことしたんでしょ! 分かってるのよ! 婚約破棄されるくらいだから酷いことをやらかしたのでしょう!? 何をしたの!? はっきり言いなさい! 話はそれからよ! どうしてくれるのよ!! アンタはいっつもあたしの足を引っ張って!!」


 実家へ帰り事情を話すと、母親は激しく怒鳴った。


 やはり予想通り。


 キンキンするその声は聞いているだけで疲れる。

 聞き慣れていても溜め息が出そうになる。


 もちろん溜め息なんてつかない。吐き出したくても我慢する。もしうっかりそんなことをしてしまった日には、きっと、数時間にわたって怒鳴られ叱られることになるだろうから。


「黙ってないで喋りなさいよ! まずは理由を説明して! どうして婚約破棄なんかになったの! あたしが頑張って成立させた婚約を駄目にするなんて! 信じられない!! どういうつもり!! 答えなさいよ!!」


 あぁもう疲れた……。


 そう思った瞬間。

 私の手のひらから黒いものが溢れる。


「お母様……私がやらかしたのではないわ」


 手から一度溢れ出した黒いものはもう消えない。

 もはや引き返せない。


 これが私の魔力だ。


 その黒いものは、目の前で叫び倒す母親を呑み込んだ。


 ……そして静寂が訪れる。


 あの日、私を怒鳴り続けた母親は、この手から溢れた黒いものに呑み込まれて消えた。


 亡骸は見つからず。

 目撃者はいなかったため、原因も不明。


 母親は行方不明という扱いになった。


 あれから数年が経った今、私は、ある港町の宿で働いている時に知り合った男性と結婚し、子も得た。


「それは辛かったね」

「悪いわね、急にこんな話をして」

「いいんだ。話してくれて嬉しかったよ?」

「……ありがとう、救われるわ」


 夫にはすべてを話した。

 隠し事はしたくなかったから。


 私はこれからも彼と幸せに生きる。


 そういえば。


 これは噂で聞いたことなのだけれど、ナババスはあの後恋人と沼デートしている最中に行方不明となったそうだ。二人で普通に沼の近くを歩いていたそうなのだが、恋人の女性が一瞬目を離した隙に彼は消えていたらしい。そして彼は消えた。ちなみに、彼の亡骸は見つからなかったらしい。一応しばらく捜索されていたらしいが、それでも発見することはできなかったのだとか。



◆終わり◆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ