あちらの勝手な理由で婚約破棄されたのだというのに私にごちゃごちゃ言った母に天罰が下りました。
私はハイプーという男性と婚約していたのですが。
「君より可愛い女性に出会ってしまったんだ~、よって、君との婚約は破棄とするよ~」
なんという勝手さ……!
だが、彼の心が変わってしまったことは事実。
こればかりはどうしようもない。
ここで私が何か言い返したとしても、きっと無意味だろう。
だから私は婚約破棄を受け入れることにした。
いや、そうするしかなかったのだ。
「分かりました。ではそういうことで、さようなら」
「ありがとう~助かる~」
ハイプーと離れること自体はそれほど辛くない。
が、その先にある不快なことを想像してしまうと、正直辛さもある。
そう、母親の存在である。
私の母親は非常に口うるさい人である。それも、毎度、言っていることが正論でない。そこが厄介なのである。彼女は娘である私にいちゃもんをつけたいだけなので、どんなことにでもごちゃごちゃ言ってくるのだ。こちらに非がなくとも非があるかのように言葉を発し、こちらが正論を言えば発狂する。
そんな子どものような母親が待っている実家へ帰る……その点だけが辛い。
とはいえ避けることもできないので。
仕方なく実家へ帰った。
「アンタが駄目女だから飽きられたんでしょ!? 言い訳もいい加減にしなさいよ! 相手のせいになんかして、駄目でしょ!?」
……夫がいながら他の男と遊び回るような人に言われたくない。
でも言い返さない。
ここで言い返したらなおさらややこしいことになるから。
「それより、皿を早く洗って! あぁそうだ、この前洗い終わった皿をあっちの台に置いてたけど、あれ困るから! 右側に置いて!」
一週間ほど前には左の台に置くよう注意されたが……。
と、まぁ、私の母親はいちゃもんをつけたいだけの癇癪持ち女性である。
外面だけは良いものだからなおさら厄介だ。私が本当のことを言ってもきっと誰も信じてくれないだろう。しかも、父がいるところでは優しくして二人の時だけギャアギャア喚いてくるのも性格が悪い。
これからこんな人と暮らすのか……と憂鬱に思った。
◆
あれから五年が経った。
私は今、森の奥にて、動物たちと共に暮らしている。
実家に帰り絶望していたあの日の晩、私は奇跡を見た。
意地悪で最低最悪な母親に天罰が下ったのである。
真夜中、調理場で自分が隠しているつまみを食べていた母親に悲劇が起きた。
近くの食器棚が何もないのに急に倒れたのである。
しかも、戸は開き、中の食器が大量に出て母親に襲いかかった。
それによって負傷した母親だが死には至らなくて、しばらく医者を家に呼んで治療してもらっていた。
が、一ヶ月も経たないうちに今度は彼女の両親が事故で急に死亡。
それによって心を病んだ母親は自殺未遂を繰り返すようになり、夫である父親の意向で知人の施設へ入ることになった。
こうして私は母親と暮らさなくて良くなったのだが、あの家にいると意地悪された記憶を思い出してしまうので、親とは別のところに住むことにした。
今は細々と仕事をしつつ自然の中で生きられて……とても幸せだ。
◆終わり◆