趣味がおかしい女と言われ一方的に婚約破棄されました。
幼き日、見惚れた――雨上がり、木々の狭間に雫を煌めかせる、艶やかな糸。
あれは蜘蛛の糸だった。
でも、それまで見たことがないくらいに、美しくて。
私はその日恋をした。
美しいものを当たり前のように作り出す、蜘蛛、という存在に――。
◆
「おめえみたいな不気味な趣味の女とはやってけねー。てことで、婚約は破棄するから。いいな」
婚約者ループスンは急にそんなことを言ってきた。
「これまたいきなりですね……何か理由でもあるのですか?」
「理由なら簡単なこと。おめえは蜘蛛なんぞを可愛がるだろ? それが無理なんだよ」
はぁ……やはりか……。
そんなことだろうな、とは想像していたけれど、ここまでしっかり正解だとは思わなかった。
「あんなキメーいきもんを可愛いとか言ってる女とかほーんとーに引くわ。だからもう消えてくれ。そんな女の顔なんぞ見たくねーよ」
酷い言い方ね。
嫌みの一つも言いたい気分ではある。
が、それでも構わない。
私は分かってもらえないことには慣れている。
私は私の道を行く。
◆
あれから数年、私は蜘蛛の研究者として有名になった。
今は講演会やら何やらで毎日忙しい。
仕事がびっしり詰まっている。
有名になってから一度ループスンに「やり直そう」と迫られたのだが、それはきっぱり断った。
だってそうだろう?
彼は蜘蛛好きな女性が嫌いなのだから。
私とやり直せるはずがないではないか。
以降、彼とは一度も会っていない。
ただ、彼のその後について聞く機会はあって、そこまで興味はなかったものの彼のその後について聞いた。
ループスンはあの後私の悪口を言い広めることに全力を注いでいたらしい。が、力を入れるあまり迷惑行為のようなことを繰り返すこととなってしまい、最終的には治安維持組織に捕まってしまったそうだ。
それから彼は……牢に入ったり出たり入ったり出たりと、何度も同じことを繰り返しているそうだ。
また、そのこともあって、彼の社会的評価は最悪のものとなっているらしい。
◆終わり◆