婚約破棄などもはや気にするほどのことでもあるまい。
その日、婚約者の彼ワルイーデンは告げてきた。
「お前との婚約、破棄することにしたから」
驚きはしない。
彼は私以外の女性にニヤニヤしがちな性格だから。
……それに私は彼にお世辞を言い続けたりしないしな。
「あぁそうか」
「そういうところだよ! そういうところが可愛くないんだ!」
相変わらず騒がしい。
「出ていけば満足か?」
「そもそも何だよ、その口調! 可愛くねーなぁ!」
「ま、そうだろうな。可愛くしようとしていないからな」
「ちょっとは女性らしくしろよ!」
まったく。
婚約破棄するうえ希望を押し付けてくるとは、恐ろしく厄介な輩だ。
放っておいてほしいのだが。
「どうやら私にはそれは無理そうだ。じゃ、これで私は去ろう」
関係を修復するのは無理。
そうなれば離れるほかあるまい。
「ではな」
「ああ! 二度と現れるなよ!」
「……言われずとも」
こうして二人の関係は終わった。
彼は結局最後まで気づかなかったようだ。
私がこの国に大昔から住んでいる『伝説の魔女』だとは。
だがそれも無理はない、か。
一応一人の女性ということで話を進めていたからな。
ま、これは一種の娯楽よ。
それゆえ、婚約破棄などもはや気にするほどのことでもないのだ。
もちろん、理不尽に婚約破棄される若い娘は気の毒に思うが……。
それにしても……私は愛されんな、相変わらず。
娯楽娯楽と言っていてもちょっとくらいは気にするわ。
どうでもいいことだとしても、な。
婚約破棄後、私は山中の家へ戻った。
木の戸を開けると家の中へ駆け込む。
そして、部屋の中で昼寝をしていたふわふわな魔獣に抱きつく。
「ふわぁぁぁぁぁー!」
真っ白な毛が頬に擦れる。
「また婚約破棄されたわあぁぁぁぁー!」
抱き締めた時のこの感触。
これがたまらん。
ずっとずっと、いつまでも、こうして抱いていたくなる。
「やはり私にはお主しかおーらーんー!」
ちなみにこの魔獣は私が昔山中で拾ったのだ。
本来群れで行動する種のようだが。
この個体は群れからはぐれてしまった個体のようだった。
あれ以来ずっと一緒に暮らしている。
きっとこれからも私はこの魔獣と共に生きてゆくのだろう。
ここで二人きりで。
いや!
それでいい!
このふわふわを楽しめるなら何でも構わない!!
◆
あれから一年。
ワルイーデンは亡くなったと聞いた。
彼は結婚を予定している女性と共に客船に乗って旅行していたそうなのだが、その最中に事故に遭い、そのまま亡くなってしまったそうな。
……誤解するなよ?
私は何もしておらん!
呪いでもない!
しかし、若くして、気の毒にな。
◆終わり◆