急に婚約破棄された私はもう誰も信じないことにしました。~ただし人間でない者たちは別ですので~
私たちは想い合っているはずだった。
「悪いがな、お前との婚約は破棄ってことにするわ」
けれども、想い合っているというのは幻想でしかなかったようで。
婚約者の彼ボーディンは、それが当たり前であるかのように、急にそんなことを告げた。
「え……」
「伝えるのが急になったことは悪かったと思ってるよ。でもいつかは言わなくちゃならねえことだからな」
「そんな。何か理由が?」
「察してくれよな。じゃ。これからはもう他人、な」
裏切られた気分だった。
いや、実際、裏切られたに近いのだ。
だって、この婚約は正式なものだった。それに、親が強制したというわけでもなく、両者が納得しての婚約だったのだ。だからなおさら、彼もその気でいてくれているのだと思っていて、疑いもしなかった。
でも違った……。
この婚約を大切に思っていたのは私だけだったのだ。
私が馬鹿だった。
疑いもせずにいた私が愚かだった。
分かっていても……もう誰も信じる気にはなれなかった。
◆
ボーディンと別れて二年。
私は今、森の中で魔獣たちと共に暮らしている。
あの日以降私は人を信じられなくなった。いや、厳密には、信じないと決めた。後になって裏切られたと感じて辛くなるくらいなら最初から信じなければ良いのだと気づいたのだ。
ただし、それは人間に限ってのこと。
可愛い魔獣たちのことなら、今でも迷いなく信じられる。
だって魔獣たちは嘘をついたりしない。突如心変わりして傷つけてきたりもしない。それはもちろん少々困るところがある個体だっているけれど、隠したり黙っていたり騙したりはしない。彼らはいつも、良くも悪くも正直だ。
だから好き。
ちなみにボーディンはというと、あの後、森を開拓して事業を始めようとしたことでそこで暮らす魔獣たちから怒られたらしい。
それでも彼らの声を聞かず強硬しようとするものだから。
最終的には、攻撃力の高い種の魔獣たちの攻撃によって、持っているものすべてを焼かれてしまったそうだ。
◆終わり◆