可愛くない? もっと媚を売れ? ……何か勘違いなさっているようですね、私は一人の人間ですので。
その日はよく晴れた爽やかな日でした。
「ルジーナ、お前との婚約は破棄とすることにした」
婚約者の彼ルイスンは真顔でそのようなことを言ってきました。
理解できません。
無自覚なところで何か非があったのでしょうか。
しかし、心当たりはないのです。
「なぜでしょうか?」
理由が読み取れないので、直球で尋ねてみることにしました。
すると。
「可愛くないんだよ、お前は」
彼は、それが当たり前であるかのような雰囲気を醸し出しながら、そう返してきました。
可愛くない?
それが婚約破棄の理由?
「妻になりたいならせめてもっと媚を売れよな」
「それは……少し理解できないのですが」
最低限の礼儀はわきまえていたはず。無礼なことはやらかしていないはずだし、不快な思いをさせるようなことをしたり言ったりしたこともないと思うのですが。
それでも駄目なのでしょうか。
もっともっと、可愛がられるよう振る舞わなければならないのでしょうか。
「ま、何にせよ、婚約破棄は決まったことだからな」
「理不尽ですね……」
「そういうところだよ。そういうところが可愛くないんだ。女はここで涙でも流して謝って許してほしいと懇願するぐらいじゃないとな」
……さすがに不愉快です。
「承知しました。婚約破棄で構いません」
私は彼の欲求を満たす存在にはなれない。
「あぁ、そうしてくれよな」
「さようなら」
こうして私はルイスンと別れました。
◆
ルイスンに婚約破棄されてから、もう三年になります。
時の流れとは早いものです。
そして、時の流れというものは、どこまでも偉大でした。
あの頃は「この不愉快さを抱えて生きていかなくてはならないのか……」と憂鬱に思っていましたが、今ではもう記憶も徐々に薄れ、正直あの頃の不快感は忘れてきつつあります。
ちなみに私はというと、今は、防具店を営んでいます。
この街には冒険者が多く出入りします。そのため防具の売れ行きはいつも好調。おかげさまで潤っています。私は冒険者の方々に感謝していますし、彼らもまた、私に感謝してくれることが多くあります。お互い感謝しあえる良い関係、というやつですね。
私はこれからもこの道を行くでしょう。
そうそう、これは最近知人から聞いて知ったことなのですが、ルイスンはあの後非常に厄介な女性に捕まってしまったようです。
とても優しく愛らしい人で、ルイスンは惚れ込んでいたそうなのですが……実は詐欺師だったらしくて。
ルイスンは詐欺被害者となり、多くのものを失ってしまったそうです。
もっとも、今の私には無関係ですけれど。
◆終わり◆