婚約破棄された私は神に仕える者として永遠の命を手に入れました。
その日、彼は何の躊躇いもなく言いました。
「君との婚約は本日をもって破棄とする」
私は知っていました、彼が私でない女性を愛していると。ただ、それでも、ここまで堂々と婚約破棄されるとは思っていなかったので衝撃を受けました。すぐには信じられませんでした。
「……何を黙り込んでいる?」
「すみません、少し、驚いてしまって」
「はは、そうだろうな」
彼は私を馬鹿にしたようににたりと笑みを浮かべます。
その瞬間、私の中の何かが切れた気がして。
なぜ馬鹿にするの。
なぜそんな顔をするの。
「それでは、失礼します」
私はそう言って、彼の前から去ることを選びました。
非のないこちらが自ら引くのは少々不愉快でしたが――彼といても幸せになれないなら――と、婚約破棄を受け入れることにしたのでした。
その日の彼の家からの帰り道。
見たことのない鳥が目の前に現れて。
私はそれについていくことにしました。
おかしいと思うでしょうか。
そう思われるかもしれませんね、それは分かります。
ただ、その時の私は、何かに縋りつきたい気持ちだったのだと思います。
◆
時の経過とは早いもの。
あの婚約破棄された日から百年が経ちました。
私は今、神に仕える者として、永遠の命を得て生きています。
いつまでも終わらない人生。けれども、この人生を選んだことを、私は後悔してはいないのです。いえ、むしろ、この道を選んで良かった、とまで思っています。
ここではいつも穏やかであれる――それが何よりもの幸福なのです。
ちなみに元婚約者の彼はというと、もうとうに亡くなったのですが、あの婚約破棄の直後に別の女性と結婚したようでした。
ただ、それで幸せになれたかというとそうでもなかったようで。
結婚してからは夫婦仲がいまいちで、数年も経たないうちに別居となり、寂しい人生を送ることとなったようでした。
もちろん、それは、彼の妻も同様です。
結局、二人が心から受け入れ合って共に暮らすことは、結婚後は一切なかったようでした。
◆終わり◆