婚約者が婚約破棄を告げてきたので、痛いところを突いて差し上げました。
「本日をもって、君との婚約は破棄とする!」
婚約者ブルティネストは胸を張り片手をかざすようにしてそう宣言した。
晩餐会の最中。
皆は驚いたような顔で見ている。
「……本気で仰っていますか?」
私はそう尋ねてみる。
私は彼の行いを知っている。そう――他の女と過剰に親しくしていた、という事実を。今まではなるべく触れないようにしてあげていたのだが、婚約破棄などと言われるなら話は別。彼が勝手なことを言い出すのなら――容赦はしないし、容赦できるほど寛容でもない。
「あぁ、本気だ」
「なぜですか?」
「君はボクに忠実に生きる決意を持っていない。そんな人とは生きてはゆけない。それが理由だ」
なんて勝手な。
馬鹿げている。
他の女と遊んでおいて、そんな理由で婚約破棄するというのか?
ならばもう容赦はしない。
「ブルティネストさん……実は私、知っているのですよ」
「何だ?」
「貴方、他の女性と深い関わりをお持ちでしょう?」
彼の顔面がみるみるうちに青白くなる。
「何を言い出して――」
「証拠ならあるのですよ」
私は微笑む。
「なんならその証拠を今ここで皆さんの前でお披露目しましょうか? あぁ、それも、悪くはないですね。名案です。そうすれば多くの方に証拠品を確認していただけますし――では! 早速!」
言って、所持していた証拠品を取り出す。
そこで私は彼の行いをお披露目した。
周囲の人たちはかなり驚くと共に戸惑っているようだった。
「婚約破棄告げて逆に痛いところ疲れるとかだっせー」
「あんな行為……下品よね……」
「さすがに驚きましたわ」
「いきって逆襲されてやがんのー」
一部でしかないけれど、証拠品を持ってきておいて良かった。
これがこんな時に役に立つとは。
「も、もう、やめてくれっ……」
「では、こちらから婚約破棄させていただきますので」
「こ、婚約破棄は! これを理由には! やめてほしい!!」
「お笑いですね。私だって――貴方のような方とは生きてゆけません。ですから、さようなら」
この日私たちの関係は終わりを迎えた。
そういう意味では彼だって良かったはず――だって彼は、元々、自ら婚約破棄を望んでいたのだから。
それから私は着々と手続きを進めた。
そして慰謝料もきちんと取った。
これで終わり。
ブルティネストと関わることはもうない。
その後私は親戚の人の知人であるというちょっとした縁から良家の息子と知り合い、やがて結ばれた。
彼は温厚な良い人だ。
風呂上がりの背伸びの時に発する声が異常に大きいところだけは困るけれど。
ただ、そんな欠点は気にしないでいられるくらい、彼のその他の部分は問題がない。背伸びの声を除けば、完璧な人と言っても過言ではないかもしれない――そんな風に思うこともあるくらいだ。
一方ブルティネストはというと、私と婚約していた時代に仲良くなっていた女性と結婚したそうだが、その後も彼の女好きは落ち着かなかったようだ。
結婚後数回の不倫を重ねて離婚。
不倫相手のうちの一人と再婚。
しかしまた別の女性数名と不倫をして揉め事になり離婚。
彼はずっとそんなことを繰り返して、日に日に貧しくなりながら生きているようである。
◆終わり◆