私たちの幸せの邪魔をしないでちょうだい、ですか? 私はただ彼の婚約者だっただけですけど。
「君との婚約なんて、もう破棄だ!」
「そうよ。私たちの幸せの邪魔をしないでちょうだい」
目の前には仲良さげな男女。
その男の方は、私の婚約者であるグルテンである。
「あの……すみません、意味が分からないのですが……。なぜいきなり婚約破棄なのですか……? さすがに理解が追いつきません……」
グルテンにあまり好かれていないことは知っていたが、だからといって正当な理由もないのに婚約破棄など普通はしないだろう。婚約を破棄する、というのは、それだけの理由があってこと認められることではないだろうか。
そもそも、そんなに嫌な相手となら、最初から婚約しなければ良いのだから。
「ちょっと何なの? まだ邪魔をするつもりかしら」
女性は強気だった。
グルテンの愛が自分に向いていると知っているからこその強気さなのだろう。
だが、そんなで大丈夫なのか?
彼女は本来してはならないことをしているというのに。
「邪魔って……私は何もしていません」
失礼にもほどがある。
私はただ彼の婚約者だっただけ、邪魔なんてしていない。
「してるじゃない」
「私が何をしていると仰るのですか……?」
「愛し合う私たちを認めず引き裂こうとしている」
呆れるほど意味不明だ。
「そんな! めちゃくちゃです。私は最初からグルテンさんの婚約者でした、後から出てきたのは貴女の方です」
言うと、女性は急に顔を真っ赤に染め上げた。
「うるさいわね! 調子に乗るのはいい加減にして! 順序なんて関係ないの!! だって私と彼は愛し合っている!! そしてアンタは愛されていない!! 誰の目にも明らかでしょ!? ちょっと婚約者になったくらいで思い上がってんじゃないのよ!!」
その後私は「これ以上に粘るならアンタが私を苛めていたって言いふらすわよ!」などと言われ、面倒ごとに巻き込まれるのは嫌なので婚約破棄を受け入れることにした。
理不尽極まりない婚約破棄ではあるけれど、嘘を言いふらされて名誉を傷つけられるよりましだ。
そういうことで、私とグルテンの婚約者同士という関係は終わった。
その日の晩。
私の前に一匹の妖精が現れた。
人の指先から肘までくらいの背丈で、痩せ型の五十代女性のような容姿。白いドレスを着ていて、片手には杖を持っている。
「辛い想いをしましたね」
その妖精は第一声そう発した。
「けれども安心してください。あなたを傷つけたあの者たちは、間違いなく、これから傷つくこととなるでしょう。あなただけが傷つく結末になどなりません」
そう言って、妖精はすうっと消えた。
何が起きるのだろう……。
詳しいことは聞けなくて。
だからこそ、もやもやするというか。
非常に気になった。
その後実家で暮らしていた私は、両親を通じて、グルテンらについて聞くことができた。
きっと疲れて幻でも見たのだろう、と思っている部分もあったが、あの妖精が言っていたことは嘘ではなかった。
グルテンとあの女性は、私が消えた後に、めでたくかどうか分からないが結婚したそうだ。しかし、いざ結婚してから女性の親に大きな問題があることが発覚。それによって、両家は急に仲悪くなってしまったらしく、その結果グルテンと女性も引き離されることとなってしまったそうだ。
そうして別居となった。
二人はそれぞれの実家に戻ることとなったのである。
しかしグルテンは女性を諦めきれなくて。
彼は、女性に会うため、彼女の家があるところまで単身向かったらしい。
だがその最中野犬の群れに襲われて負傷。何とか逃げることに成功するも、今度は雨に降られ、木の下で雨宿りをしていると落雷に遭う。しかし即死ではなかったようで。通りがかった人に助けられ、治療を受けて、何とか命拾いしたと思われた。
が、数日後に、病院内にて息を引き取ったそうだ。
一方の女性はというと、父親の闇ルートからの借金が積もりに積もって返せず、最終的に裏社会に売り飛ばされてしまったらしい。
ちなみに私はというと、実家でのんびりと暮らせている。
◆終わり◆