愛しいあなたとしりとりを。~それが二人の幸せ時間~
私には婚約者がいる。
彼の名はウィズム・オーガリー。
いつも穏やかで優しい青年。
そんな彼のことを、私は、心の底から愛している。
そんな私たちの細やかな楽しみ、幸せな時間。
それは、二人でしりとりをする時間である。
私たちは二人きりになると大抵すぐにしりとりを始める。しりとりを楽しむ時間こそが至高。これがたまらない。
もちろん、くだらないこと、と思う人だっているだろう。
それも分かる。
けれども私たちにとっては、しりとりをする時間が最高なのだ。
「ウィズム、今日もしりとりを楽しみましょう?」
「うん! じゃ、お茶でも淹れるよ!」
ちなみに私が好きなのはカモミールティーだ。
「始めるわね」
「うん!」
「じゃあ……カモミール」
彼は花柄のポットを手にしている。
「ルイボスティー」
「ティッシュ」
「うわっ、ちょっと難しい、けど……手話!」
「割引」
「じゃあ、貴公子、で!」
「そうね……なら! しりとり、にするわ」
出されたのはカモミールティーだった。
さすがはウィズム、よく分かっている。
香りからして美味しそうな仕上がり。
「ベタなところ来たね。えーっと、じゃあ、領地!」
「誓い」
「おおーっ。い、だから……息切れ!」
手にしたティーカップを傾けると、口腔内に良い香りと甘みをはらんだ味わいが広がる。
「歴史、でいくわ」
「シュークリーム」
「麦茶」
「おおっ。じゃあ、茶会、にするよ!」
「池、で」
「喧嘩」
「ちょっと物騒ね……なら、カップ、で」
「プール、かな」
「瑠璃」
「し、シンプルっ……よし、なら! 旅行、で!」
彼とこうしていると癒やされる。
できるならいつまでもこうしていたいくらいだ。だって、ずっとこうしていられれば、きっと幸せでいられるだろうから。この時が永遠なら、いつまでも満ち足りた気持ちでいられるはず。
でも残念ながらそれは無理。
だからこそ、二人でしりとりをできるこの時間を、何よりも大切にしたい。
「海辺、でいくわ。さぁ、次は……べ、よ」
「便秘」
「それはまた珍しいわね……なら、ピラニア」
「雨乞い」
「慰謝料、でいくわね」
「裏表、で」
その時ウィズムは皿を渡してくれた。可愛らしいうさぎの絵がついた小さなお皿には、マドレーヌが二つ乗っている。私はその皿を軽く「ありがと」とだけ言って受け取った。
見るからに美味しそうなマドレーヌ。
「手袋、にするわ。それにしてもこれ……美味しそうね……」
「美味しいと思うよ、実は高級品なんだ。まぁそれを言っちゃ駄目だけど。ああそれより……ろ、からだね。ロバ!」
私たちのしりとりは終わらない。
◆終わり◆