妹の方が好みなのかと思っていたら……実は (前編)
領地持ちの家の長女として生まれた私リリーナ・フォレストは、家の事情で、同じ領地持ちの家であるノーザン家の長男カストロフ・ノーザンと婚約した。
それが二ヶ月ほど前のことである。
その婚約に愛はなかった。が、それでも良い関係を築けるよう、私は努力してきたつもりだ。だが、カストロフはというと、親しくする気がまったくない。
「せめてアンタじゃなくて妹だったらなぁ」
カストロフはいつもそんなことばかり言う。
彼は私を好きでないようだ。いや、それはまだいい。恋愛から発展したわけではないから。
ただ、困るのは、あることないこと言いふらして私の評価を下げようとしてくるところ。こればかりは本当に迷惑だし不愉快だ。
「婚約者がさぁ、好きになれって強要してきて鬱陶しいんだよな」
最初は友人にそんなことを言いふらしだした。
だがそれは、まだ可愛いものだった。
彼の嘘は段々エスカレートし、いつしか「夜とか無理矢理部屋に入ってくるんだよなぁ、はぁ……」とか「いちいち迫ってきてさ、怖いんだよ」とか、そんなあり得ないことまで言い出す。
そして私は、ついに、カストロフの母親に呼び出された。
「あなた、うちの息子に一体何をするつもりなの!?」
「何もしていません」
「寝ている時に襲ったそうね!? お嬢さんがそんなで恥ずかしくないの!?」
「それは嘘です。私、そのようなことはしていません」
色々問い詰められた。が、私は心を折らず、ひたすら真実を述べ続けた。だってそれが真実なのだ、わざわざ嘘に合わせる必要なんてないはず。私は本当のことを言うだけ。心を強く決めて、私は話した。
しかし信じてはもらえない。
さらに「息子に過剰な行為をする」として婚約破棄を突きつけられてしまった。
私は切ない気持ちになっていた時、妹のハルニーはなぜかとてもご機嫌だった。とても不自然だ。姉が理不尽な婚約破棄で悲しんでいる時に、日頃見かけないくらい笑顔で機嫌が良い妹。普通であればあり得ないことである。
だが、数日後、その理由が分かった。
ハルニーは既にカストロフと関係を持っていたのだ。
確かにカストロフは以前から私をよく妹と比べていた。妹の方が良かった、とか、妹の方が可愛いのに、とか。ただ、その時には、そういうことなのだと気づけなかった。既に関わりがあるだなんて、少しも考えてみなかった。当然、そぶりもなかったし。
両親は、私を差し置いてカストロフと親密になっていたハルニーに対し、怒りを露わにする。
「ハルニー! あなた、なんてこと!」
「何なの? お母様。そんなカッカしちゃって。あたし、なーんにも悪くないのよ」
「お姉ちゃんの婚約者と関係を持つなんて!」
「あたしが悪いの? そうじゃないでしょ。男性に魅力を感じさせられないお姉様が悪いの」
しかし、当のハルニーはというと、行いを悔いてはいないようで。
「お前は何ということを!」
「お父様うるさーい。声大きいし、唾飛んでるー」
「せ、せめて、リリーナに謝れ!」
「何それ、あたしを悪者にするの? 馬鹿みたい。ま、そういうつもりなら好きにすれば。あたしはべつにお父様に味方してもらおうなんて思ってないからー」
ハルニーは末っ子ということもあって両親に可愛がられて育った。そのため昔から自分勝手なところがある。思い通りにならないと不機嫌になるし、私のものであっても欲しければ奪う。彼女はそういう気質だ。
彼女にとって、他人はただの置物に過ぎないのだ。
私も、子どもの頃には、お菓子やおもちゃを奪われることも少なくなかった。