急に婚約を破棄してきた彼は、あの後結婚するもやらかしてしまったようで……。
「悪いが君と共に生きてゆくことはできない。よって、婚約は破棄とする」
絹のような煌めきのある銀の髪を持つ青年——私の婚約者ヴェローニは、私を自室へ呼び出すと、真剣な面持ちでそう述べた。
「それは一体……どういうお話ですか?」
「共に生きてゆく気はない、ということだ」
「そんな。いきなりそんなことを仰るなんて勝手ではないですか」
「君の考えなどどうでもいい。さっさと去ってくれ」
彼は私の言葉など一切聞こうとしなかった。
こうして私は、唐突に、婚約を破棄されてしまった。
◆
あの急過ぎる婚約破棄から、早いもので五年が経過した。
私は今、大規模な工場の持ち主である男性と結婚し、家を守っている。
基本的に私は工場の方へは介入しない。それに関してはすべて夫に任せている——いや、それが当然だろう。工場の持ち主なのは夫なのだから。もちろん、頼まれれば協力はするけれど。何も言われていないのにわざわざ出ていくのは、余計なお世話としか言い様がない。
彼は工場の管理。
私は家の管理。
それぞれが力を出すことで、家庭は上手く回っている。
そういえば最近、私の昔の婚約者であるヴェローニのその後について知る機会があった。
彼は私と別れた直後に長年付き合っていた女性と結婚したらしい。
しかし、女性が生んだ一人目の子が夜な夜な泣き続けることがきっかけとなり、夫婦仲は悪化の一途を辿り——ある晩ヴェローニが子を衝動的に殺してしまったことで、離婚することとなったそうだ。
女性は悲しみのあまり心を病み、実家へ戻って療養することとなったそう。
一方ヴェローニはというと、子を殺した罪で、生涯牢に入れられることが決まったそうだ。
◆終わり◆