婚約者は浮気性! 〜治りそうにありません〜 (前編)
もっと早く知っておくべきだった。
アイル・カイストンは浮気性だと。
そうすれば私だって彼と婚約しなかった。こんな風に不快になる機会もなく済んだだろう。あるいは、一回目や二回目で諦めて離れておけば良かった。そうすれば、こんなに何度も揉めなくて済んだのに。
「婚約してから数えてももう十回目よね」
「えー?」
「最近! 毎週! エルセリアさんと遊んでいるでしょう!」
「何の話ー? なになにー?」
いや、もちろん、彼だけが悪いわけではないのだ。
早く離れなかった私にも非がある。
ここまで浮気を繰り返すということは、さすがに病の域。癖の域をとうに出ている。そこまでなってしまっているとなると、易々と治るものではない。
だから、もっと早くに、私がすべてを諦めるべきだったのだ。
「とぼけても無駄。今回はもうさすがに許さないわ」
「エルセリアさんのこと? あんなのただの遊びだよ。そんな真剣に怒らなくてもー」
いつかはきっと気づいてくれる。婚約者が嫌がっていることならやめてくれるはず。たとえ一度二度では理解してもらえなくても。それでも、回数を重ねれば、いつかは分かってもらえる日が来るに違いない。いつかは、いつかは。
そんな私の考えが甘かった。
彼はまったく改善しようとしていない。いや、むしろ、婚約してからそういう行為が悪化している気すらする。しかも無自覚。だからなおさらたちが悪い。
「でももう限界よ! だって私、貴方の浮気相手たちから、ことあるごとに絡まれるの。嫌みを言われたり、嫌がらせされたり、侮辱されたり……もう無理!」
嫌な思いをしても我慢しようと思っていた。嫉妬されているだけだから、と、己を励まして。彼が私の苦しみに気づいてくれるまで、ひたすら耐えようと考えていた。これは試練なのだと、無理矢理思い込もうとしていた。
だが私にも限界はある。
こんなことを永遠に続ける、そんなことはできない。
「あーそっか。じゃあ、婚約は破棄しよっか」
暫しの沈黙の後、アイルはさらりと言ってのけた。
「え」
……私の存在はそんなに小さいものだったの?
……さらりと婚約破棄なんて言えるくらい、私はどうでも良かったの?
確かにそれなら話には納得がいく。私が大切な存在でないなら、彼が浮気行為をやめないのも不自然ではない。だって、私が傷つくこととか私が嫌がることとか、彼には何の関係もないから。
でも。
そんなことって。
「えー違うの? 耐えられないからそうしたいんじゃないのー?」
アイルはヘラヘラ笑いながら続ける。
何を考えているのか読めない表情。
「そんなこと……よく平然と言えるわね……」
「どういうことー?」
「婚約すると決めた時は……愛してるって、言ってくれたのに……」
「今も愛してるよ?」
「じゃあどうして婚約破棄なんて言うの!」
今はただ、自分の情けなさが辛い。
もっと早く自分の間違いに気づいていれば。