不思議を抱えた子供たち
あるところに、不思議を抱えた子どもたちがいました。
一人は、女の子。
この子は、同じ女の子しか好きになることができませんでした。
それを知ったお母さんと、お父さんは、嘆き悲しみました。
友だちも、離れていきました。
『いったい、どこで間違えてしまったの。』
『気持ち悪い。近寄らないで。』
女の子はそう言われて、なんだか自分まで悲しくなってしまいました。
だって、両親からも、友だちからも、どこかのだれかからも。
周りの沢山のものたちに、否定されたのですから。
女の子はそれから、男の子が好きなふりをするようになりました。
お母さんと、お父さんは、元気になりました。
でも、女の子は、なんだか生きるのがとても窮屈になってしまいました。
一人は、男の子。
この子は、他人と恋をすることができませんでした。
自分の周りで友だちがなんとも楽し気に話している、女の子についての話。
それの何が楽しいのか分かりませんでした。
ある人は恋をして楽しそうに。
ある人は性に目覚めて楽しそうに。
男の子は、ただただ友だちの話を傍観することしかできませんでした。
男の子には、ひとつ恐れていることがありました。
ひとりぼっちになることです。
普通じゃないものは拒絶される。
だから、普通じゃない自分が拒絶されることをとても恐れていました。
男の子は、そういうものがあるふりをするようになりました。
そのおかげか、友だちとは今でも仲よしです。
でも、どうしてでしょうか。
少しだけ、心が苦しいのです。
一人は、女の子。
この子は、女の子です。
でも、体は男の子でした。
だから、女の子はとてもつらい思いをしました。
女の子なのに、お風呂は男の子と一緒に入らなければなりませんでした。
お手洗いも、男の子のお手洗いを使わなければなりませんでした。
好きなものを買うことを、許されませんでした。
好きなように遊ぶことも、許されませんでした。
だんだんと成長していく体が女の子のものではないことに苦しみました。
『どうして私は女の子なのに、男の子の体をしているの。』
周りの女の子たちは本当に女の子らしく、可愛く成長しているのに。
女の子は、自分の体も女の子にするために、手術をすることにしました。
少しだけ、世界に希望を見出しました。
一人は、男の子。
この子は、男の子も、女の子も、どちらも好きになることができました。
あるとき、男の子に恋人ができました。
その恋人は、男の子と同じ、男の子でした。
優しくて、笑顔の素敵な、男の子でした。
お母さんと、お父さんに紹介しました。
お母さんは、悲鳴を上げました。
お父さんは、男の子と恋人を、怒鳴りつけました。
どちらも、男の子が連れてきた恋人が同じ男の子だからという理由でした。
恋人を馬鹿にされた男の子は、怒りました。
だって、性別が男の子だったというだけで恋人を馬鹿にされ、罵られたのですから。
男の子は、そのまま家を出ていってしまいました。
正直、バイトだけでは生活するのが少し苦しいときがあります。
あの時の恋人とも、もう恋人ではありません。
でも、男の子は後悔していませんでした。
だって、あの時出ていったからこそ、今の幸せがあるのですから。
一人は、女の子。
この子は、男の子も、女の子も、それ以外と言われるものも。
すべての性別の子を好きになることができました。
この子には、ずっと不思議に思っていることがありました。
『何でみんなはそんなに性別にこだわるの?』
だって、別に男の子と女の子じゃなくても、恋はできます。
実際、自分がそうだったように。
不思議で仕方がありませんでした。
でも、誰に聞いても、それが普通だからとしか返ってきませんでした。
いったい、普通って何なんでしょう。
女の子には分かりませんでした。
分からないまま、周りの言う普通になるべくあわせて、溶け込んで。
違和感を拭いきれないまま、大人になっていきました。
一人は、男の子。
この子は、女の子しか好きになることができません。
本人もそれが普通で、一番いい事なのだと思っていました。
でも、あるとき友だちの男の子が男の子も女の子も好きになれるということを知りました。
じゃあ、自分は普通ではないのでしょうか。
男の子は悩みました。
でも、その友だちの男の子のことをお母さんに話すと、自分が普通なのだと言われました。
そして、もうその子には近づいてはいけないとも言われました。
両方好きになれることは、おかしい事なのだそうです。
男の子は不思議に思いました。
だって、両方好きになれるその友だちではなく、お母さんの方がおかしく見えたからです。
男の子は女の子だけ好きになりますが、両方好きになれる友だちのことも好きでした。
お母さんも、両方好きになれることを知るまでは、友だちのことをよく褒めていました。
だから、両方好きになれることだけを理由に友だちを虐げるお母さんが怖くなりました。
お母さんの前で、上手に笑えなくなりました。
みんな、悩みました。
自分たちが生きることに向いていない世界で
せめて傷ついてしまわないように。
せめて傷つけてしまわないように。
悩んで、悩んで、悩んで。
幸せを手に入れた子もいれば、
心が欠けてしまう子もいました。
それは今でも続いていて。
自分の違和感に、
周りからの疎外感に、
今でもいつまでも悩んでいて。
隠し通すことを拒まれて、
明かすと自分を拒まれて。
そんなことを繰り返しながら、
この生きづらい世界を、
今日も必死で生きています。
だから、私は今日も祈ります。
せめて、あの子たちが怯えなくていいように。
歪んでしまったこの世界で、
拒絶されてしまわないように。
誰かの心に語り掛けます。
だって、それがこの世界を創ってしまった私の、
せめてできる償いだから。
この声が聞こえていますか
この声が届いていますか
誰の声が聞こえていますか
どんな声が聞こえていますか
手を差し伸べられますか
声を聴くことができますか
声を聞き分けられますか
この世界が見えますか
どんな風に映っていますか
自分に都合がいいですか
それとも都合が悪いですか
綺麗に見えますか
それとも汚く見えますか
この問いをどう受け取りますか
あなたは今、何を見てどんなことをしていますか
あなたはこれから、何をしてどんな未来を拓きますか
あなたは今、シアワセですか。