プロローグ下
身を包むのはふわふわとした感覚。
五感が失われたような、気持ち悪い感覚。
しばらく、ふわふわとした感覚に気持ち悪さを覚えながらも浸っていると、唐突に七色の虹に包まれた光が現れた。
黒く靄がかかっていた脳内に直接顕在したかのように。確かに視界は暗闇に包まれているはずなのに、何故か認識できていた。
眩しいぐらいに光り輝くそれは愉快そうに、何語かも分からない言葉で語り出した。正確には、脳内に言葉が響いた。
「この世界は作り物。私はこの世界を作りしもの、神」
七色の虹に包まれた光。何語かも分からない言葉。そしてこの台詞、まさか……。
「当たり、だね。私は君たちの世界を創造した所謂、神、だよ」
俺は何も口に出していなかった。
いや、まず喋ることが出来ないのだ。
だが、こいつは俺の考えたことに反応してみせた。
つまり、こいつは俺の考えたことを……。
「こいつ、酷いね。君は私の子供なのに。親に向かってその発言は、悪業だよ?」
子供だと?
どういうことだ。
俺はお前から生まれた覚えなどないが?
「はぁ、理解力、ないね。君は私が創造した一部なんだから、子供ってこと」
こいつ。伝承にある、暇だからって言葉でふざけた奴とは分かっていたが……思っていた百倍はうざいな。
光だから顔がある訳ではないが、何となくだがニヤリとしている気がするし、声色も馬鹿にしてきている感じがプンプンとする。
「君も、大概毒舌だと思うけどね」
ハッ、お前には負けるよ。
「……善行ランキングトップだったのに、じゃじゃ馬、すぎない?善行ランキング、見直した方がいいかも」
善行ランキングだと?
何だそれは。
「トップの子だし、いっか。善行ランキングはね、文字通り善行を積んだランキングだよ。それで君は一位だったんだ。よかったね」
ほぉ、そんなのがあるのか。
善行ランキング一位、嬉しいような嬉しくないような感じだな……。
「そう?凄いことなのに。ま、いっか。早速、本題に入ろっか。私は善行ランキングで来世への特典決めてるんだけど。君の善行多すぎ。特典エラー。最後の善行。あれがよくなかったね。あれ、善行ポイント高すぎるよ」
善行が良くないって……。お前が善行しろって言ってきたのに凄い言い分だな。
「む。仕方ない。人間が生涯積む善行平均の一万倍の善行って、頭おかしいよ。君、チートでも使ったんじゃないの」
善行チートってなんだよ。息するだけで人間の本分を全うしたから善行。みたいな感じか?そんなことできるかよ。
というか、ふざけるな。
さっさと本題を教えてくれ。
「おっけ。私はね、死んだら勝手に特典付与されて転生されるようにしてたんだよ。でも、君が頭おかしいから、エラーになっちゃった」
なんで俺のせいみたいになってんだよ。
一から百まで全部お前が悪いわ。
で、俺の特典はどうなるんだ?
「それがねえ。特典はなし」
は?
まてまてまて!
俺のこれまでの頑張りはどうなるんだよ!
「残念だけど、善行ポイントもエラーで分からなくなってるし、特典付与できないね」
そうだ!
わざわざ俺に会いに来たということは、何か対応をしてくれるんだよな?
「……はぁ。説明するだけ説明して、転生してもらおうと思ってたけど、可哀想だしね。一つだけスキルをあげるよ」
スキル、だと?
なんだそれは。
「そういえば、言ってなかったね。君たちの転生先は、所謂ファンダジー世界なんだ。そこでは、スキルが人生を決めるといっても、過言じゃないよ」
……なるほどな。
善行を積めば積むほどスキルに恵まれ、善行を積んでいなかったらスキルがもらえず、地獄を見るというわけか。
「そうそう。まあ、正確には生まれや顔立ちなんかにも、影響するんだけどね」
へえ。
まあ、来世のことはなんとなくわかった。
結局、俺には何のスキルを与えてくれるんだ?
「ふふふー。善行ポイントが分からないと言っても、君は一位。だから、所謂、チートをあげる。その名も、スキル【時空魔法の極意】!」
時空魔法の極意……?
良く分からんが、凄そう、ではあるな。
「そうだよー。なんたって、今まで誰にも与えたことの無い、唯一無二のスキルなんだからね」
ふーん。
性格の悪そうなお前にしてはえらくまともじゃないか。
「酷いなー。これでも立派な神様、なんだけど?」
腐っても神ってことか。
まあ、感謝するよ。
「むー。ま、いっか。どういたしまして。じゃあ、話は終わったようだし転生させるね。では、良い来世を」
おう。
じゃあな。
少しすると、ふわふわとした感覚が強くなる。
意識に靄がかかり、急に眠気が訪れた。
最後に七色の光が姿を消すと、同時に俺の意識もそこで途絶えた。