88 大団円
「こんばんは、七時から予約していた富崎ですが」
「はい、お待ちしておりました! 奥の個室へどうぞ! 五番席入りまーす!」
「はーい、いらっしゃいませ!!」
「いらっしゃいませ!!」
ドンドーン!! 太鼓の音が鳴る。
ここは羽赤駅近くの居酒屋『民和』、今日はLITメンバー達の暑気払いだ。すべて円満解決した今、浩の「飲み会しませんか?」を断るメンバーはいなかった。幹事は富崎さんにお願いしたが、皆の家から一番中間に位置する此処に決めたらしい。
威勢の良いイケメン店員は一行を奥の部屋まで連れて行くと、扉を開ける。
人数よりも余裕ある広い部屋だが、既に2人の先客が掘り炬燵に座っていた。
「アネキ!」
「猿渡池さん」
「や!」「あ、どうも」
「どうしたの?」
「サプライズで呼んだんです」
富崎さんが言った。
「私達も頑張ったし〜 慰労してもらおうかなっと♡」
「図々しいわね!」
「何よ!」
「し、下前谷さんもお元気で」
「お久しぶりです」
こたつテーブルには中央にレオとジェニファーが向かい合って座り、ジェニファーの右に猿渡池。レオの左隣が彩、その隣が直樹。レオの右隣は美咲で、その隣が富崎さん。そして美咲と富崎さんの向かい側、ジェニファーの左に座るのが、浩リーダーと赤川コーチだ。
一触即発までとはいかないが、それぞれの思惑を秘めた会が始まる。
ガラガラガラ
明るそうなギャル店員が、扉を開けて部屋に入って来た。
「おしぼりとお通しで〜す。はい、どうぞ」
「ありがとうございます〜」
皆に配られ、おしぼりで手をふく。直樹や浩は、顔も拭いた。
「じゃあ二時間飲み放題、はじめても良いですか?」
「はい、お願いします。とりあえず生中の人〜!」「はーい」「はい!」
全部で7人。
「他は? ソフトドリンク?」
「こどもビールで」
「わたしはウーロン茶で」
「はい、分かりました」
注文を取り終えると、店員が出て行った。
「いや〜 暑いっすね」
「そうですね」
「そう言えば、タマーランドの最近は、どうなの?」
「おかげ様で、もう少しで復帰の目処が立ちそうです。ケラミュ達が頑張ってますよ」
「良かったですね」
ガラガラガラ
再びさっきのギャル店員が、飲み物を持って入ってくる。
「はい、どーぞ!」
「きたきた! やっぱビールだね!」
「はいはい、こっちこっち」
飲み物が皆に行き届く。
「じゃあ、そろそろ始めます。では社長から一言」
仕切りは、富崎さんだ。
パチパチパチ
「しゃっちょ〜!!」
直樹のテンションが、みょうに高い。
「え、まずはお疲れさま。メンテしてくれる人達も本当は呼びたかったけど、人数多いし、スイカを収穫したときにでも、改めてバーベキューやります」
「よ、しゃちょー! さいこー!!」
「うるさい(苦笑)。では改めて。今回はお疲れ様でした!」
「お疲れ様でしたー!!!」
「したー!!」
「アネキのおかげで一兆円も手に入ったし、LITの汚名も晴らせました。これからも新製品作ってLITを大きく発展させる為に、みんなの力を貸して下さい」
「はーーい!!!!」
「はいはーい!」
「じゃ、乾杯するよ」
「え、社長それビール?」
「ノンアルノンアル(笑)。はい、じゃあお疲れ様でした。かんぱい!」
「かんぱ〜い!!!!!!!」
「お疲れさま〜」
「お疲れさん〜」
グラスとグラスを重ねる音が響き、その後に拍手がおこる。
なんで拍手をするのか謎だが、これも慣習だ。
「ビールうめ〜」
「やっぱ夏はビールだね」
「はい、じゃあ後は料理が来ます。今日は刺身大盛りコースです」
「わーい!!」
「美味しそー!!」
「あ、ここカラオケある!! 点数出るよ!」
美咲が操作してみると、電源がついた。
「後でやろ、やろ!」
ガラガラガラ
さっきのギャル店員が、合鴨のサラダを持って来る。
「お、きた!」
「ありがとうございます」
「はい、取り分けますね」
テーブルに置いてある取り皿に、美咲がよそって渡した。
「このカラオケ、使えるんですか?」
富崎さんが店員に聞く。
「はい、大丈夫ですよ」
「あ、焼酎ロックでお願いします」
「赤ワインも追加で」
「かしこまりました」
「美味しい!」
「野菜はうちの方が鮮度良いかな」
「まあ、良いじゃん。鴨はいないし」
「じゃあ今度、育ててみます?」
「良いかもね」
「何おやじギャグ言ってんですか〜」
「じゃあ、一曲目はリーダーから!」
「よ、りーだー!!!」
パチパチパチ シャンシャンシャン
直樹が、置いてあったタンバリンを派手に鳴らす。
「え、ではコヤマ雄三で『海よ その愛』」
「キャー、シブいー!」
「リーダーさいっこう!!」
……
「お、75点でました!」
「最初にしては、高得点ですね〜 さすがリーダー!!」
「じゃあこれやろ、これ!」
赤川コーチが曲検索の本を持って、彩と美咲に相談する。
「え、これですか」
彩が少し躊躇する。
「良いじゃん!はい、始めるよ!」
女子3人が立上がる。
「ミサキです〜」
「アヤです〜」
「レイナです〜」
「三人あわせてポフュームです! 『PLASH』歌います!」
ヒューー!! シャンシャンバンバン!!!
直樹や辰也のテンションが高くなり、タンバリンの音も激しく踊る。
……
「お〜90点!!」
「すげえー!!」
「ありがとうございました♪♪♪」
ガラガラガラ
今度はイケメン店員が、扉を開けて入ってくる。
「メインです」
「きたー!盛りつけきれい!」
「ヒュ〜」
暫くは食事がすすみ、酒の酔いも回り始めた。
「じゃあ、次コメヅで」
時間も経って、直樹がマイクを握った。
「え〜太ったコメヅは見たくなぁあい!! ヨネヨネクラブぐらいにしとけ!」
酔った彩の、野次が飛ぶ。
「あ、じゃあ『君もいるだけで』にします!」
ジャラジャラ 盛り上げ役の直樹が歌い手にまわったので、少しテンションが落ちていた。
……
「惜しい! 63点!」
「チクショー!」
「社長もなんか歌って!」
「しょうがないなあ。んじゃ直樹くんに代わってコメヅの『檸檬』でも」
「似合う〜!」
「キャー!しゃっちょう素敵〜!!」
……
「お、95点の大台です! トップ!」
「さすがしゃっちょーー!!!」
みなのノリも良く、タンバリンの音が響き、宴は盛り上がる。
「すいません、延長も可能ですか?」
ギャル店員が何度目かのお酒を持って来たとき、富崎は聞いた。
「後のお客さんいないから、大丈夫ですよ」
「よっしゃーー!!!」
その言葉に、一同安心する。
皆がカラオケで騒ぐ中、レオとジェニファーは、2人で喋っていた。
「でさ、アネキこれからどうすんの? まだ一兆円もらってないけど?」
「そ、それだけど、まだ用意出来てなくて。。わ、わたしの体じゃ駄目? し、処女だし」
恥じらいながら上目遣いで弟を見つめるジェニファーだが、「いらねー」と一蹴される。
「お、お姉ちゃんがこんなにお願いしてるのに、、レオのバカ! 意気地なし!」
「いや、それ違うし。まあさ、元々もらえるとは思ってなかったよ」
「やっぱり?」
ジェニファーが、思わずにやける。相変わらず腹黒だ。
「んでさ、どうせだから、これから一緒にやらない?」
「が、合体するってこと? い、良いわよ」
何か妙な妄想をしているのか、ジェニファーの顔が赤くなる。
「ちげーよ。合併。どうせお互い事情あるしさ、助け合っていこうよ」
「そ、そうね。考えてあげないこともなくってよ」
「よっしゃー! 今日はオールで!」
赤川コーチが勢いよく叫ぶ。
「おーー!!」
皆も同意し、歌声が大きくなる。
楽しい宴の夜は、更けていった。
これにて完結です。ここまで読んで下さり、本当にありがとうございました!読んで下さった皆様のおかげで無事終わらせる事が出来ました。次作のモチベーションになるので、感想やポイントを頂けますとありがたいです。改めて、皆様に御礼申し上げます。ありがとうございました。




