87 再建
「え、なに?どうしたの?」
無事終わってさあ帰ろうかと思った美咲達だが、運営の様子がおかしい。
ケラミュ達のさっきまでの騒ぎも静まり、ザワザワと奇妙な沈黙が広がっていた。
「何だか、あのネットのフェイク映像持ち出されて、文句言われてんだって」
クローズした回線で、レオが4人に説明した。
「え〜!! あれ、あいつらがいい加減に作ったやつじゃん!! 何これ、一兆円駄目ってこと?」
美咲は怒り心頭だ。目の前にぶら下がる一兆円がするりと逃げそうなのだから、当然である。
「いや、まだ協議中みたいだよ。下手な対応すると炎上するから、見守るしかないね」
レオは冷静だった。他の3人も打つ手無しと言った風で、静観している。
「いやいや、抗議のコメントが沢山きています。……どうしましょう? 猿渡池さん?」
杉山は、猿渡池にふった。
ここで評判を落とすと、テレビのレギュラーも失いかねない事態だ。
(ぶっちゃけ、内容はどれも『あいつらに一兆円渡すな!』なんだよな…… ひがみや妬みか……)
だが世間を敵にして、うまくいった例はない。こんな番組で人生を棒に振る必要も無い。世渡り上手な杉山の本能が、ここは猿渡池にすべて任せろと、言っていた。
「そうですね……」
猿渡池も悩んだ。ここで、事実を言う訳にもいかない。そしたら火の粉がこっちに降りかかって、大炎上だ。レオ達も、本気を出せば、こちらの不正を晒す暴挙をしても、不思議じゃない。
それにタマーランドも再建の目が出そうだし、下手なことを言えば経営に支障がでる。しかし立場上、自分が決めないとマズいのも、分かっていた。
「マ、創造主様、どうします?」
専用回線でマイクに入らないよう連絡する。
「あんた、何とか誤魔化しなさい!」
言うのは簡単だが、やるのは大変だ。
「まあ、ヘルメット揃えてるし、衣装も違うし、別人じゃないっすかね?」
確かに、毎回似た服装ではあるが、万が一を考え完全に同じ服では出動していない。幸い、ヘルメットは初めての装着だ。ネット動画も低画質だし、いずれ忘れられるだろう。
ネットの反応も、『これ、違うんじゃね?』という風潮のコメントが増えて来た。
「ま、とりあえずこのパネルは渡しましょうか?」
とにかく番組を終わらせれば、何とかなる。パネルには一兆円と書かれているが、マルサじゃあるまいし、実際に振り込まれたかどうか、確認出来ない。あやふやに終わるにも、儀式が必要だ。
「では、ヒロシリーダーに来てもらいましょうか」
杉山としては、ギャラはもらって責任を負わずに終われば、それで良い。
「はい」
猿渡池も同意する。
「ヒロシリーダー、こちらまで」
杉山に促され、浩は中継会場まで足を運んだ。一兆円のパネルが猿渡池から手渡される。
「では改めてLITが一兆円ゲットです!!! おめでとうございます! 何か一言!」
「あ、ありがとうございます。ギリギリでしたが、何とか成功して良かったです」
「それでは猿渡池さんも、何か一言」
「今回、皆様のおかげでゴジ助も元に戻りました。これからタマーランドも建て直しますので、再開の折には是非ご来園下さい。皆様のお越しを、心よりお待ち申し上げます」
「ありがとうございます。それでは今回で最終回になりました、『ゴジ助倒したら一兆円!』の企画を終了します。今まで大勢のご視聴、ありがとうございました!」
無事ネット動画は終わる。それを見越したかのように、ジェニファーが丘へやってきた。顔を出せない身分であるのと、万が一のために研究所で待機していたが、もうその必要はない。
「アネキ、これで良いかい?」
「あ、ありがとう……」
柄にもなく、少し目が潤んでいたジェニファーは、丘を下りてゴジ助の元へと向かった。ジェニファーを一目見て、ゴジ助は培養槽にいた懐かしい日々を思い出していた。
マ、ママ……
培養槽の時から、ずっと見てくれていた存在だ。
ジェニファーも、ゴジ助のゴツゴツしたお腹にひしっと抱きつく。
「ごめんね……」
ジェニファーがゴジ助に寄り添う姿は、母親のようであった。仮そめにも自分が作った作品だ。可愛さはひとしおだろう。ゴジ助も、ジェニファーの肩を抱く。
ケラミュ達やLITのメンバーは、しばらくその姿を眺めていた。
「そうだ、原子炉取り替えなきゃね。あとであっちに行こう」
ウン……
子供のようにニコニコし、ジェニファーになつくゴジ助であった。
ジェニファーは、ケラミュ達にも話しかけた。
「よし、これからタマーランドの修復をはじめるよ!みんな頑張ろう!!」
ワーー!!!
ウオーーー!!
ジェニファーの呼びかけに、歓喜の声を上げるケラミュ達である。廃墟と化し荒涼としているタマーランドに、希望の光が差すようであった。
「これで、やっと帰れるね」
富崎さんが乗るフェンガーMkIIが丘に降り立ち、レオが言う。
「みんな、お疲れさま」
「はい!!!!」
(明日は、畑に行ってナスの収穫しようっと♪)
今までの苦闘を忘れ、気分を切り替える美咲であった。




