09 5人目登場
(新入社員をこんな目にあわせるなんて、やっぱりここもブラック企業なんだな……)
行く手を阻むものが居なくなり、ガンドムは逃げ惑う人々を尻目に悠々と歩いて行く。やがて船の博物館に近づいて行った。
歴史的に貴重な船もあるから、あそこで暴れられると、被害は甚大だ。タロとジロに申し訳が立たない。それよりも、手前にはゆりかもめがある。こんな異常事態にも関わらず何故か通常運行で、レインボーブリッジを渡って来るのが見えた。災害と平時が入り混じった、日本独自の牧歌的な風景である。
(あーしょうがない、やんなきゃ!)
美咲は意を決し、キッとガンドムを睨みつけると助走を付け、ガンドム目がけ飛び立った。必死にガンドムの懐に入り込もうとするが、相手も負けじと必死に追い払い、確実に歩を進める。
ゆりかもめは一つ前の駅を発車した。
流石に焦ってきて、武器を持つ手にじっとりと汗がにじむ。
と、突然、ガンドムの頭上にある二つの穴から、光が輝いた。
!?
さっきと同様、前触れも無く突然ガンドムの頭部からミサイルが発射される。美咲は間一髪で避けたものの、ゆりかもめの線路を越えた先に着弾した瞬間、まばゆい光と同時に爆音が鳴り響き、大地も震えた。
ドドドドドーーーーーン!!!!
幸い落下地点は駐車場だったので、車が数台吹っ飛んだだけで済んだ。この二度の爆発で、さすがに今まで威勢が良かった警官達も慌てふためき、かなり後ずさりし始める。
ただゆりかもめだけは脱線もせず、定時通りにのんびりと運行していた。さすが無人運転。それでも、あのまま進めば車両も危ない。
中にいる乗客達の様子をうかがうと、のんびり走るゆりかもめとは裏腹に、車両内は大パニックになっている。だが自動運転のせいか、直ぐに止まる気配はない。
(どうしよう……)
美咲は自分の無力を呪った。大体が入社一日目でこんな精神が錯乱しかける過酷な状況で、冷静な判断を要求されても無理だ。でも逃げるのは嫌だから、とにかく被害者が出ないよう、最善を尽くそう。
頭を冷やすため少し深呼吸すると、まず周りの様子を注視した。
幸い、子供やお年寄り達はいない。
覚悟を決め、再び美咲はアタックを開始する。
「くそっ! 早く倒れろ!」
何度か踏み込み攻撃をしながらもかわされ、なす術なく時間が過ぎて行く。
「はぁ、はぁ……」
疲れで美咲の動きも鈍くなり始めた。援軍もいない。
このままでは、やられそうだ。
美咲が焦り始めたその時、レインボーブリッジの方で何かが輝き、ガンドムに向かって一筋の赤いレーザーが照射された。
?
赤いレーザーは大きな壁となりガンドムを包み込むと、途端にガンドムの動きが鈍くなった。遠くから光を放った何かは、やがてこちらに近づくにつれ、実体が見え始めた。
人間だ。どうも、空飛ぶスケボーに乗っている。
「おばちゃん邪魔!」
少年の声が、アヴィトラプから響いて来た。
美咲はむっとして思わず、「誰? わたしおばちゃんじゃない!!」と言い返す。
「とにかく、どいて。そいつやっつけるから」