82 姉がきた
「浩リーダー、お疲れ様です。今日も熱心ですね」
訓練の休憩中、美咲は浩に話しかけた。ヅラを外すと髪はバーコードで、年相応に見える。ただその表情は以前より温和になり、少しずつ美咲達とも打ち解けて来た。
特訓場所だが、むかしは畑だった森の中の広場だ。
皆で草刈りして、使えるようにした。
「一兆円を山分けしてくれたら、娘の海外留学もできるしね。そりゃやる気も出ますよ」
「え、分けてくれるんですか、社長?」
美咲は思わず、近くに座るレオに聞いた。
「もちよ。経費と会社の運営資金抜くけど、1人最低一〇〇億円はあげるよ」
想像つかない額に、我を失いそうになる。
この言葉で、皆のやる気に火がついた。
「お嬢さんはどこに留学したいんですか?」
「音大だから、ウィーンでね。お金が沢山かかるんだよ」
「頑張りましょう! 留学どころか、ウィーンにお城買えますよ!」
「そうだね.体力無いけど、頑張りますよ」
「はい、休憩終わり、次行きますよ〜」
赤川コーチのかけ声で練習が再開する。
だが邪念のせいか、美咲も含めLP砲のレーザー出力は逆にいまいちだった。
「うーん…… LP砲は無意識も含め気持ちが出ちゃうからね……」
赤川コーチは複雑な顔をしていた。5人で感情をあわせるのは、更に難しい。
「美咲さんは無意識で母性本能が強いんだと思うけど、皆『何がゴジ助の為になるか』、考えて」
赤川コーチにそう言われても悩むが、とにかく精神集中して訓練に励んだ。
更に訓練が進む最中、ゴソゴソと音がして、森の中から黄色い影が現れた。
「やあ、皆さん」
ピカ吉だ。
「え、どうしたの?」
「ちょっと此処に来たいって人がいてね、案内して来たんだ」
「ハロー? 元気?」
そう言ってピカ吉の後ろから現れたのは、ジェニファーだった。
スタイルが良いので、タンクトップとミニのデニムスカートが似合っている。
「アネキ!」
レオも意外な顔をしたから、アポなし訪問のようだ。
「あんた何しにきたのよ!」
美咲は露骨に嫌な顔をした。
「何よ〜 ゴジ助の為に頑張ってくれるって言うから、陣中見舞いに来たのよ、悪い?」
「そんなこと言って、一兆円ホントにくれるの? 紙くずでごまかしたりしない?」
世知辛い世の中でもまれる美咲だから、お金の話を簡単には信じられない。
「なによ脳筋バカ女、私がそんな事するわけ無いでしょ!」
「まさかあんたのブロマイドで、一兆円の価値にするとか?」
「ギク!」
少しやましい顔になった。こいつ、考えてたな。
「ま、まあ頑張ってるようで何よりよ。で、武器はこれなの?」
そう言ってジェニファーは興味深そうに、5人の持つLP砲を見た。
一人で持つ分は、ライフル銃ぐらいな大きさだ。
「わたしが撃ったらどうなんの?」
そう言って近くにいる彩からLP砲を奪い、一緒に来たピカ吉に撃ってみた。不思議な色のレーザーが、ピカ吉に当たる。メンバー達は、事の成り行きを心配そうに見ている。
ピカ吉は電源が切れたかのように、一瞬停止した。
かと思うと少しヤらしい目付きになり、「ご主人♡!」と、ジェニファーにガバッと抱きついた。地面に押し倒されて泥だらけになるジェニファーは、急な展開に驚き、必死にもがく。だがピカ吉の本気は結構強い。
「ちょっとなに盛ってんの! やめて!」
「ご主人、実は前から……」
「そんなの良いから! ちょっと誰か何とかしてよ! キャーー!!」
タンクトップが簡単に脱がされ、肩が露になる。もうちょっとで見えそうだ。直樹と浩は助けるどころか、ゴクリと喉を鳴らし凝視している。レオと3人はあきれ顔だ。流石にこれ以上の展開は、垢BANの可能性もあるからまずい。
「何しに来たんだか……」
美咲は、ジェニファーに乗りかかり野性味溢れるピカ吉に向けて、LP銃を撃った。するとピカ吉は硬直し、安らかに眠り始めた。ジェニファーは脱出に成功する。
「はあ、はあ…… ある意味、恐ろしい武器ね。ゴジ助にも効いて欲しいわ」
「どうかな。まだ出力が十分じゃないんだ」
「じゃあ私も増幅装置作ってみるわ。最近、ゴジ助も外に出たがるのよ。困ってて」
「とにかく、やってみるよ。賞金よろしくね」
「うまくいったらね。ほら起きて!」
ジェニファーはピカ吉をぐらぐらと揺さぶると、ピカ吉はハッとした顔をして目を覚ました。
「ボ、ボクは一体……」
「もう良いわ。帰るわよ。乗せて」
「はい」
ピカ吉はジェニファーをおんぶすると、そのまま高く飛んで行った。
「あれ、飛べるんだ」
5人と赤川コーチは、しばらく彼等が飛んで帰る姿を見上げていた。
「じゃあ、終了。お昼にしましょ〜」
皆一緒に歩いて戻り、富崎さんが用意する食堂へと行く。
最近は5人で食事もとる機会も多くなった。
色々と話をするにつれ、皆の事情が分かり始める。やはりライバルに蹴落とされたり、派閥争いに負けたりと、ここに来るまでの経緯は複雑だ。
「明らかに私より劣る同期の方が、出世早かったからね。オヤジキラーにならないと、駄目なのよ」
彩はうんざりした顔で言っていた。
「男でも女でも、上司の好きな物が得意じゃないと駄目っすからね。僕もゴルフとかやっとけば会社に残れたかもしれません。あと上司が熱烈な東京ジャイアントファンで、阪神チータースをボロクソにけなすのも、ムカつきましたね。営業で売上げ伸ばしても全然違う部署に行かされて、メンタル病みましたよ」
直樹もそのお腹に似合わず苦労している。別れた嫁の話も聞かされた。社内恋愛だったが、鬱病になったら三行半を突きつけられたらしい。気の毒な話だ。
「私の頃はバブルだったから、幾らでも会社が選び放題だったけどね。大学に残ったけど、ご存知の通り娘が音大に行きたいと言い出してね。待遇の良い会社に移ったら、詐欺同然の酷い会社で、追い出されたんだ」
「奥さんは働かないんですか?」
「そんなの、ある訳ないよ。専業主婦が当然の時代だったから」
「へえー、そうなんですか。私なんか就職自体が夢のまた夢で、ほとんど日雇い労働者でした。おっちゃん達のセクハラが酷くて、マジで身の危険ありまくりでしたけど」
こうやって話を聞いてみると、時代背景や個人で全く違うのが分かる。歌や趣味も、違い過ぎてお互い知識が足りない。だが以前よりは、それぞれの話を聞くようになった。
「でも、何でこんな生きづらい世の中になったんですかね……」
美咲がボソッと言う。
「それが分かれば苦労しないんだけどね。とにかく今は、これに全力を尽くそう」
レオの言葉に、うなずく4人だった。
そしてしばらく経ったある日、「これで良いかな」とレオが皆の前で言った。
「お疲れさん。準備も大体できたね。じゃあ、参戦しますか」
「ハイ!!!!」




