81 足りないもの
「でさ、そろそろ気付いて欲しいんだけど、このメンバーに足りないもの、何だか分かる?」
レオは4人を見渡して、言った。
互いの顔を見合わせるだけで、誰も言葉を発しない。
ちなみに席順は、美咲と彩、浩と直樹が隣り合わせで両側に座り、レオがお誕生日席だ。レオから少し離れて富崎さんが居るのは、執事のたしなみなのだろう。
モニターは、こたつテーブルに各自置かれている。時々さっきのライブ中継も見られる。今は戦車が一台、ゴジ助の人差し指一本で破壊された映像が流れていた。
(足りないもの?)
何だろう? と美咲は考えた。
浩リーダーや直樹は、あれ以来腫れ物を触るように美咲に接するし、セクハラ関係は、畑のおばあちゃん達の方が面倒だ。小学一年生で学童保育になったから、七時まで帰宅が必須だが、最近は勤務時間が減ったので、それも問題ない。
レオくらいしかイケメンがいないのは、足りないと言えば足りない。だがそんな事を気にするのは、美咲だけだ。彩さんのお色気も最近足りないが、そんなの、レオは気にしてないだろう。
「ずーーーっと気を使ってたんですけどね、皆さん、僕より年上だし」
(そうなんだ)
意外に思う美咲だった。レオの辞書に《気を使う》なんて言葉があるとは、ついぞ思わなかった。余計に分からなくなり、美咲は混乱する。説教を予期したのか、他の3人は俯いて無言だった。
「僕ね、昔アメリカにいた頃、これをテレビで観て、感動したんだ」
そう言って切り替わったモニター映像は、特任戦隊ゴーバスジャーだった。大翔が戦隊ものを観始めたとき、過去の作品も視聴したから、美咲も知っている。イケメン目当てでよく大翔と一緒にヒーローショーへ行く美咲には、好きな作品(俳優)の一つだ。
「日本には、普通にこんなヒーローがいると思ったんだ。3歳児だったから、若気の至りだけどね。この会社も、こう言うのに憧れて作ったんだよ。<皆の力で悪を倒す>って言うの」
(そうだったんだ)
あんなテレビを本気にするなんて、可愛い所あるんだと思う、美咲であった。
「でもさあ、良くやってるけど、皆の力を合わせてっていうのがさあ、あまり感じないんだよね。申し訳ないけど、もうちょっと仲良くやれないかな? 助け合いの精神、ってやつ?」
シーーーーン
皆、即答出来ず、体を硬直させ視線をそらしている。
どう答えて良いのか、迷っていた。
(そういうことか)
言われてみると、確かに団結心に欠ける集団だ。戦闘時もバラバラで、お互いを見もしない。昔の日本なら、浩リーダーが絶対で命令に服従していただろう。だが父親の権威が失墜した現代日本で、皆そんな気はさらさらなかった。
美咲もだが、4人とも本当に憎み合っているんじゃない。それぞれに、悪意は感じられない。でも確かに、仲良くはない。もともと人と関わるのが、苦手な人ばかりのようだ。だから紆余曲折を経て、ここに来たとも言える。人生で損しているのは、確かだろう。
多分、お互いの距離感が分からなくて、親しくできないんだと思う。
でもゴジ助を倒すには、一人一人バラバラじゃ難しい。
レオの言い分は、確かにその通りだ。
「文句も言っちゃう時もあるけど、良くやってるとは思うよ、うん、感謝してる。皆も職にあぶれて来たから、この仕事嫌々やってるかもしんないけど、それでも開発進んだし助かってるよ。
ただどうもコミュニケーションが無いというかさあ、お互い認め合っても良いんじゃないの? 齢も違うから、共通の話題も少ないだろうけどさ、仲良くしようよ。
リーダーもヅラ外して皆と気楽に話すとかさ、
彩さんも、ムーニン関係や好きな服を語ってくれるとかさ、
直樹君は、アニメや漫画もっと分かりやすく教えてくれるとか、
おばちゃんは、、もう少し冷静だと良いけどね。子育て苦労とか、聞いてあげるよ」
「は、はい……」
「分かりました」
「了解です」
「そうね」
(あれ、やっぱりヅラだったんだ)
齢にしてはフサフサ過ぎるとは思っていた美咲で、疑問が氷解した。
浩は少し顔が赤いが、ともかく4人は、レオの言葉を受け止めた。
「で、どうする? 一兆円もらえるし、参加しても良い? 実はアネキが早く来いってうるさくて」
レオの口調は、普段通りに明るくなった。
「はい」
「了解です」
「大丈夫です」
「いけますけど、勝てるんですか?」
最初に戻るが、美咲は率直に聞いた。
「確かにね。でね、対策兵器はこれになる。まだ八割の完成度だけど」
そう言いながら映像に出て来たのは、巨大な大砲のような物だった。
「これね、製作中のLP砲。おばちゃんだけじゃ無理で、5人の力が必要なんだ」
レオの説明に、皆は神妙な顔をした。
「五つのレーザー出力器を使って増幅させて、一つにまとめる。そうすれば理論上、ゴジ助の脳を不活化出来ると思う。あくまで、まだ計算上の結論なんだけどね」
「つ、つまり5人で同じ精神波長のレーザーを造り上げるってことですか?」
「そう」
彩の質問に、レオはシンプルに答えた。
「で、できますかね?」
浩は疑い深そうな眼差しで聞いた。
今まで美咲一人しか出来なかった技を皆でやれというのだから、当然難易度は高くなる。
「やるんだよ! いい? これから赤川さんを呼んできて、再教育するから。絶対全員参加だよ」
「はい」
「分かりました」
「承知しました」
「了解です」
「いやさ、ここからいこうか。返事は同時にハイで。じゃあ良い?」
「ハイ!!!!」
レオの号令で、大きな声が山間に響いた。
「あーーっと、これで全滅です。またのご来場を、お待ちしております」
モニターを見たら、さっきの参加者がゲームオーバーになっていた。
「久しぶり!お、何か昔より空気が締まったね。レオ社長も言ってたけど、ガンガンやりましょう!」
「ハイ!!!!」
赤川コーチも相変わらず元気で、こう言うのが好きそうだ。
それから、皆での特訓が毎日続いた。




