08 強いぞガンドム
心配になった美咲に加えて彩も、直樹の元にに駆け寄って行った。それに対しリーダーの余裕か、浩は特段何もしない。
あの速さで叩き付けられた時はヤバいと思ったが、直樹はヨロヨロと動きだす。どうやら無事みたいだ。幸い怪我は軽そうで、安心した。初めて会った日に上司が死なれると、さすがに気分が悪い。
これもフォッティキュの性能なんだろう。想像以上に凄い。少なくともモブの警官よりこの三人の方が、ロボットを征伐できる可能性が高そうだ。
「いやあ、中々キツいわ…… 反電磁銃でモーター止めたかったけど、失敗しちゃいました」
軽く言っているが、直樹は明らかに戦闘不能で、戦線離脱だ。次はリーダーが行くのかなと、美咲が思っていると、平然とした声でリーダーから指令が入った。
「じゃあ次は、桃浦さんと下前谷さんでお願いします」
(え?)と心の中で思った美咲だが、命令は絶対だ。
(こ、これ絶対ヤバいって!)
この状況で、命令拒否は限りなく難しい。彩は社員歴が長いのだろう、反抗的な態度はとらない。ただ口元は、とても機嫌が良さそうには見えなかった。長年の付き合いから反論は無駄だと、諦めているようだ。
「じゃあ行きましょう。私は左から、あなたは右からで」
彩は粘土の塊を二つに分け、細い剣と小ぶりの楯に変形させている。
「は、はい」
「では」
サッ!!
(はや!)
彩は今までの優雅な姿からは想像がつかないほど俊敏な動きを見せ、蜂のように飛び回ってガンドムを攻撃し始めた。直樹に負けず劣らず奮闘している姿は、美咲に勇気を与えた。
(みんな、結構できるんだ)
美咲はさっきまでの偏見を、心の中で謝る。だがいかんせん身長差が一五m以上あるガンドム相手では分が悪く、彩の健闘も虚しく致命的なダメージになってない。
(しゃあない、大翔とコンサートの為に頑張るか!)
美咲は一呼吸おいて決心すると、ガンドム目がけて、遮二無二突進して行った。土埃がもうもうと立ちこめて視界を遮る中、予期せぬ動きで翻弄するガンドムを巧みにかわして接近を試みる。
真近に見上げると、本当に大きい。向こうも負けじと、腕や足を振り回して防御姿勢に入った。フェンガーから見た時より動きも速くなり、美咲は激突を避け防御するのが精一杯で、懐に入り込むのは困難だ。
グォオオーーン!!
カキーン!
実戦で力の出し具合を掴みながら、一進一退の緊迫した攻防が続く。とにかく相手を倒せば良い。頭を使わず、美咲は本能的に攻め続けた。しかし、かなり頑丈な材質だ。これだけ叩いても、ヒビすら入らない。
何度もジャンプしながらの慣れない動きだから疲労の蓄積もひどく、さすがに集中力が途切れそうになる。するとガンドムが背中から何か取り出し、構えた。美咲が銃と気付いた瞬間、爆音が鳴り響く。
ドォーーーンンン!!!
(あっちも武器もってんの?)
「きゃー!」
彩の方で、爆煙が立ち上っていた。爆弾が命中した? 倒れた彩が心配で駆け寄ると、彼女のスカートは切り裂かれ、下着がもろ見えだった。
(え、ピンクの紐パン?)
小ぶりなお尻も素敵ですね…… 思わず美咲は、倒れる彩をまじまじと見てしまった。幸い、大きな外傷は無い。
「うーーん…… はっ!」
意識が戻った彩は美咲の視線を感じ、残された布切れで下着を隠しつつ、再び気を失った。
(服は普通なんだ。このインナー透明になってるから、更にヤバいわ……)
別な点でも闘わねばならないと、美咲は悟った。
その一瞬の躊躇を見透かしたように、ガンドムの足が素早く美咲を捉える。
(ヤバい!)
対処する間もないまま、美咲はガンドムに蹴り上げられ、吹っ飛ばされた。
「きゃぁああ!!」
宙に舞い、天地逆転の風景になる。と思ったら視界が真っ黒に反転し、モノクロで静寂な世界に変換された。こんな感覚、空手の練習で師範代に吹っ飛ばされた時以来だ。
……
「大丈夫かぁ?」
遠くで、誰かの声が聞こえる。ぼやけた世界から、段々に焦点が定まり始め、現実世界に引き戻された。気絶していたらしい。本能的に受け身をとったので骨折はせず、大事には至ってないのが幸運だった。
「だ、大丈夫です……」
そうは言っても、まだ頭がくらくらする。
(はっ!)
何だか肩がスースーすると思ったら、ブラウスが肩から胸元にかけて切り裂かれていた。フォット何とかは大丈夫だが、無情にもさっき付けたブラが丸見えだ。
(うわっ!)
男共に見えないよう必死に隠す美咲を知ってか知らずか、浩リーダーからの連絡がきた。
「良かった。彩君はフォッティキュが故障して、力が出せなくなりました。後は頼みます」
リーダーの声は非情だ。運動神経の塊である美咲には今までもこんな役回りが多いけれど、さすがにこの状況はキツい。だが美咲は顔を引きつらせながらも、「分かりました」と返答する。どんな状況だろうが、社命は絶対だ。
口はイエスと言いつつも、無理なミッションと認識する美咲であった。