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73 目覚め

 進化の過程で、感情は何時から生まれたのだろう。


 現代生物学の発展は、遺伝子レベル、分子レベルで詳細な解析を可能にした。

 神経細胞やグリア細胞の集合体である脳は、役割が明確に区切られ、脳の地図も作られている。


 例えば視覚・聴覚などの外部からの情報は、大脳皮質内の特定箇所が受け取り、処理される。

 感覚野が受理した情報の言語対応は言語野で行われ、そこで働く遺伝子も報告されている。


 感情は、扁桃体による興奮と前頭前野による抑制のバランスで生じるらしい。

 関連した遺伝子も報告があり、例えば怒りを示す特定遺伝子の変異が知られている。


 しかし、言語化や感情の具体的な仕組みについて、完全な理解までは至っていない。

 感情に似た外的環境からの刺激応答は魚類でも報告され、進化の必須要素だった可能性もある。


 ジェニファーはケラミュ達に、ナノデバイスを使って神経細胞型チープセルとCPUに相当するシリコンブレインを繋ぎ合わせ、感情を始めとする脳機能を模した。この併用が脳内での超並列高速処理を可能にし、自律的な行動を可能にしている。


 特に感情はエネルギー増幅をもたらし、感情を無くすと鬱と似た活動停止状態を引き起こした。

 相殺可能な武器が出来るとは思わなかったが、ケラミュの活動に感情は必要な要素だ。


 だがゴジ助の設計はオートプログラムも交えた開発で、各種構造が超複雑になっている。

 初期起動がどうなるか、辰也もジェニファーも完全な予測は不可能と決めつけていた。

 つまり、自分達で作っておきながら、丸投げだ。


 そしてゴジ助は、目覚めた。


 ワレ オモウ。ユエニ ワレアリ。


 眠りから覚め、全身の神経が発火して筋肉へ伝播し、ゴジ助は爆発的な衝動に駆られた。

 ジェニファーが事あるごとに”ゴジ助”と呼んだので、自分を表す音がゴジ助だと認識している。


 ガッシャーーーン!!


 まず初めの限界を超えた一蹴りで、培養装置は粉微塵に破壊された。

 今までゴジ助を甘く包んでいた漿液は、瞬く間に泥と交じり醜悪な色と化し、池の水と混合した。


 そしてゴジ助に張り巡らされた神経ニューラルネットワークは筋肉と繋がり、大きな一歩を踏んだ。

 接続は不完全で体は未だ馴染んでいないが、考えるよりも先に無意識に足が動き始める。



 ゴジ助が子宮とも言える培養槽と池から出て、最初に視界に入ったのは、小さき者2人だった。

 自分より遥かにか弱い存在で、指の爪で簡単に切り裂けそうだ。

 

 胎児の時に頻繁に自分を見ていた、アホ面の男と西欧系美少女の2人とは違う。

 認識対象は人間と呼ばれる生物の範疇であるが、大小さまざまな存在があるらしい。


 ゴジ助は歩みを進めた。勇敢な小さき者達は全く物怖じせず、じっとこちらを窺っている。

 池から上陸し、ギシギシと音をたて、彼等に近寄ろうかという刹那、


 ……


 ゴジ助は、動かなくなった。


「はれ、どうしたん?」


 池近辺のモニターを観察していた猿渡池が、素っ頓狂な声を出した。


 ゴジ助は培養室を破って外へ出たが、調整室のガラス窓は破壊されず、ジェニファーと猿渡池は無事だった。可能な範囲でゴジ助をモニターし、観客を安全な場所へ避難させねばならない。ケラミュ達を通じて指示を出す2人だが、ゴジ助の意外な結末に、呆気にとられていた.


「もしかして、エネルギーが尽きたのかも。わたしの予想通り!」


 ジェニファーが、上手くごまかす。流石の猿渡池もツッコミを入れたくなったが、黙っていた。

 本当にそうで、このまま仏像みたいに固まってくれたら、2人にとって丁度良い。


 下手をしてゴジ助が暴走し、タマーランドどころか付近一帯破壊されたら商売上がったりだ。


 しかも諸外国に機密を売り払い戦争の片棒を担いでいるのがバレると、流石にマズいだろう。

 アメリカにもロシアにも中国にも他の国にも同じ物と情報を卸しているから、公平とも言えるが。

 

「どうします、これから?」


 猿渡池が質問する。


「あの子達がちょっと邪魔ねえ…… ピコチュウにお願いしよっか」



「どうしたのかな〜?」


 停止したゴジ助を見上げて、大翔は言った。止まったから、さっきよりも脅威は和らぐ。

 テレビから飛び出して来たような巨大な生き物は、見事な造形をしている。


 身の丈は、周りの木よりも遥かに大きく、30メートルくらいはありそうだ。

 もう一足進んでいたら潰されたかも知れないが、今はもう2人を脅かす存在では無くなった。


「これ、アトラクションの一つなのよ! そうよ! 見たことある!」


 結愛が突然、言い始めた。さっきまで怖がってたのが噓のようだ。


「ヒロト君、あれ、のぼれるよきっと、行こうよ!」


 一度恐怖が去ると、子供は大胆だ。いや、むしろ慣れたのかも知れない。

 2人は池から半分上陸したゴジ助の足にしがみつき、木登りするかのように登り始めた。

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