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72 大翔の受難

「用意はちゃんとした?」


 と美咲が聞くと、


「うん、もちろん!」


 と大翔は元気に返事する。


 普段の学校は遅刻も忘れ物もするのに、遠足とか特別な日だけはしっかりやる。

 皮肉も言いたいが、自分も小さい頃は同じだった。親の気持ちを少し思い出す。


「行ってきます〜」


 元気よく飛び出した大翔を見送り、美咲もLITに行く仕度をする。今日の予定は草むしりだ。

 もう一つ畑を増やす計画もあるので、追加の作業が入るかも知れない。


 まあ天気も良いし、のんびりやろう。急かす必要も無い。

 そう思いながら、美咲は富崎さんの待つ公園へと向かった。


▷ ▶ ▷ ▶ ▷ ▶ ▷ ▶ ▷ ▶


「じゃあ、出力もう少し上げよっかな。デビューは一週間後だし、ちゃんと動さかないとね!」


 ここは例のゴジ助が育つ培養槽の調節室。ジェニファーは何やらパネルを操作していた。


 この前からかなり成長し、ガラス越しからは全貌が見えなくなっている。

 モニターで総て監視し3Dモデルを構築しているものの、何かと不都合であった。


「もう五倍量のエネルギーが必要だからこっちの方を使わないとか…… よいしょっと」


 派手にレバーを上げると、流れ込むエネルギーがアップしたようで、手元のメーターが上昇する。

 それにあわせ、バタンバタンとゴジ助が胎動し、背びれが青白く強く光った。


 もうゴジ助の見かけは、古代を我が物顔で闊歩した恐竜と変わらない。

 ケラミュ達もヘッケルの説のように、個体発生が系統発生を反復しているようだ。


 暫くするとエネルギーも充填され、普段にまして暴れ出し、部屋もドシンと振動する。

 必要以上にエネルギーを与えないために、ジェニファーは抑制ボタンを押した。


 だが……


「あ、あれ?」


 ジェニファーが何度もボタンをカチカチ押したが、メーターが一向に下がらない。


「どうしたんでっか?」


 傍らにいる猿渡池が、何事かと見に来る。


「出力抑制のボタンが、作動しなくっちゃった……」

「それって……」

「どんどんエネルギーが上昇して、思ったより早く目覚めちゃうかも。チェルノブイリの実験失敗と同じかな? てへ♡」


 テヘペロするジェニファーの姿は可愛いが、その意味を猿渡池は瞬時に理解した。


「ち、ちょっと……」

「大丈夫よ、早産みたいなもんよ。間違ってメルトダウンしても、最悪日本丸ごと消えるだけだから」

「やばいっしょ、それ!!!」

「大丈夫、それにこれ、そんな深刻なお話じゃないし」


 焦る猿渡池をよそに、「まだ慌てる時間じゃない」とばかり悠然と構えるジェニファーだった。


 だが、ゴジ助は2人の事情など全く加味しない。栄養過多になったのか激しく揺すり始めた。

 胎児が羊膜を破るかのように、ゴジ助の手や尻尾が培養槽を攻撃する。


「あら? これは流石にヤバい、かな?」


 ジェニファーも、事の重大性を漸く気付いて来たらしい。


「ケラミュちゃん達に、厳戒態勢のコードを流しといて。万が一のときは閉園にして封鎖するわ」

了解(ラジャー)


 最悪の事態にならないようにと願いながら、仕事する猿渡池であった。


▷ ▶ ▷ ▶ ▷ ▶ ▷ ▶ ▷ ▶


「はい、みんな良いですか〜 今からお昼です。この周りから出ないこと! 良いね!」


 先生はしっかり注意する。何かあったら自分達の責任になるから、それだけは避けたい。

 下手に児童が死ねばマスコミやネットで叩かれまくる。注意したから、後は大丈夫。


「は〜い」


 子供達は皆良い返事をするが、大人の事情は無視して、勝手にわらわら動き始める。

 そしてここに1人、意を決して不穏な想いを企てる少女がいた。


「ヒロト君、いっしょに食べよ。こっち来て」


 同級生の結愛が、大翔を誘う。日頃から大翔に色目を使う、ちょっとオマせちゃんだ。

 女子力も高く、毎日お母さんが編んでくれる三つ編みは結愛の自慢である。


 結愛は、先生の目を盗んでこっそり森の中に入りずんずんと進んで行った。「どこ行くの?」と不安がる大翔だが、「前に来たことあるし、大丈夫よ!」と言う。


 子供の大丈夫ほど、当てにならない事は無い。だが大翔に判断能力はなく、素直について行く。

 やがて森を抜け、池の前に出た。すると結愛は大翔の方を向き、


「で、私とマナ、どっちが好きなの?」


 と唐突に、聞いて来た。


「そう言われても……」


 急に言われ何の事か分からず、混乱する大翔。


「そろそろ、はっきりしてよ! もう夏休みだよ! プールデートに行こうよ!」


 マナちゃんも、大翔に何かと世話を焼く同級生だ。似た者同士で、普段から張り合っていた。

 プールと言っても所詮は小学一年生、親の同伴は必須だ。だがそこが問題では無い。


「うーん……」


 正直に言えば女の子に全然興味はなく、最近始めたサッカーに夢中だった。

 だから大翔は、どう答えて良いか分からなかった。


(めんどくさいな……)


 美咲に似てイケメンの大翔は、保育園の頃から女の子に好かれやすい。あの頃は無邪気にケッコンだとか言ってたが、小学校にもなると男子と女子の対立が激しく、下手するといじめられるから波風は立てたく無い。


 特にこのタイプは断ると、後で何を言われるか分からない。ヒステリックになって変な噂を流されたら、卒業まで地獄の日々が待っている。大翔も経験を積んだので女がどういう生き物か分かって来たが、無難にどう返事すれば良いか、子供ながらも迷う大翔であった。


 そんな異なる思惑の2人をよそに、目の前の池から突然ブクブクと泡が立ってきた。


「あ、アレ見て!」


 ちょうど池が見える位置にいる大翔は、焦っていた。


「そんな、ごまかさないで!」


 結愛は背中を向けているので、背後にある池で何が起きているのか、全然分かってない。 大翔が感知した異常事態よりも、結愛は大翔が何と答えるかの方に夢中らしい。


「後ろ、後ろ!」


 大翔が言うので結愛はやっと振り返ると、確かに池がブクブク泡立ち、波が立っている。


 何かいる。


「うわ、何あれ? こ、こわい!」


 結愛も事態を察知したが、足がすくんで動けなくなった。

 2人は固まったかのようにその場を動けず、じっと池を見るだけだった。


 そして池から出るざわめきが最高潮に達した時、


 ザッパーーン!!!!


 と池の中から真っ黒で巨大な何かが現れた。


「うわーーー!!!」

「きゃあーーー!!!」


 それは巨大な恐竜のような生き物で、鋭い赤い目が、2人を睨みつけている。

 恐怖に震え、おしっこちびりそうな2人。それでも大翔は、男らしく結愛を守るように前に立った。

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