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68 勝者は喜ぶ

「あれ?」


 最初に気付いたのは、ジェニファーだ。


 軽く地面が揺れている。


 アメリカから来て最大の脅威は地震だった。地面が揺れるなんて神様は教えてくれなかった。震度6の恐怖に遭遇して以来、ジェニファーは人一倍地震に敏感で、臆病になっている。


 ゴゴ……ゴゴ……


 何これ?


 残り時間【00:39】


 この辺に電車は通らないし、高速道路もこんなに揺れない。

 そしてその音は徐々に迫って来る。


 足元が揺れてる? ホントに地震?

 ここは岩盤が固いから、大丈夫なはずだけど。


 だが断続的だったその音は連続的に奏で始め、確実な脈動が次第に足に伝わってきた。


 残り時間【00:28】


 ゴコゴゴー……


 ピコ? ピコピーコ?


 ピコチュウ達も気付いたようで、しきりに何か話をし始めている。

 ピカ吉は人の言葉を喋れたが、ピコチュウ同士のやりとりは違うようだ。


 残り時間【00:15】


 ゴゴゴゴゴゴゴ!!!!


「え、これ何なの!」


 今や明確な震動を示すそれは、ジェニファーから勝利の笑みを消すのに、十分であった。この丘から、逃げ場所はない。カゴの中の鳥状態で、安心な筈の場所が一転不安をもたらす。


 残り時間【00:09】


 ゴグガァアアアーーー!!!!


「きゃあーーー!!!」


 ジェニファーの足元の地面が思いっきり盛り上がって、土が噴水のように吹き上がった。よろめくジェニファーを尻目に、現れたのは、泥まみれになった美咲だ。


「ゴオォオオオオーーーーールゥ!!!!!」


 残り時間【00:02】


 勢いそのまま泥だらけの拳がジェニファーの顎を捉え吹っ飛ばした時、残り時間は1秒だった。



 はあ、はあ、はあ……


 流石の美咲でも体力をかなり消耗したらしく、肩で息をしている。


 美咲はルタンチャーをスコップに変形させて、崖の下から密かに掘り進んできた。レオから予め受けた作戦だけど、一所懸命必死に掘り進み、辿り着いたのはやっとだ。

 

 思ったより硬かった。時間はギリギリになったが、1秒でも間に合えば、勝ちは勝ち。主人が脳震盪を起こし倒れてピコチュウ達も呆然とする中、レオも丘の上に着陸した。


「サンキュー、おばちゃん」

「いや〜 スコップ最強っすね」


 ジェニファーは未だ失神している。改めて見ると,レオの姉だけあって端正な顔立ちだ。実物の方が綺麗だし、色白で長い金髪の容姿は、何処かの伯爵令嬢と言われても納得する。背丈は思ったより低いが、足はすらりとして長い。悔しいが、このスタイルに大和民族は敵わない。


「よい、しょっと」

「はっ」


 美咲の手ほどきで目を覚ましたジェニファーは、美咲の顔を見て露骨に嫌な顔をした。きっと本能的に、相容れない何かを感じたのだろう。美咲も同じだった。


 同極が反発し合うように、ある意味では、似た者同士かも知れない。


 恐らく一緒の学校にいたら、それぞれ別グループのリーダーとして人気を博すだろう。2人が喧嘩したならば、髪の毛引っ張ったり反則技何でもありの、ガチの死闘になりそうだ。


「くっそお」


 負けた事実を未だ受け入れられないのか、悔しがるジェニファーだった。


「負けたのよ、ほらコア部分渡しなさい」


 美咲は勝ち誇って命令した。


 目的の品は未だジェニファーの手の中だ。気絶している時に奪うのは仁義に反する。よく考えたら、貰う立場なので下手に出るべきだが、勝者の驕りかすっかり失念していた。


「わ、分かったわよ。ほら」


 ジェニファーはしぶしぶ、レオに賞品を手渡す。その辺は潔い。


「ありがとう、アネキ」

「くっ、悔しくなんかないんだから! 久しぶりに会えても、全然うれしくないし!」


 と言いつつも、レオを見てちょっと頬を赤らめている。ツンデレか。

 美咲は、感動の再会なんか全く興味なく、それより、泥だらけの体が気持ち悪かった。


「あー、ドロドロだ。あそこで洗おっかな」


 美咲はそう言って、丘の向こうにある池に向かってジャンプした。


「あ、バカ女、ちょっと何勝手にあっちに行ってるのよ!」


 ジェニファーは急に焦るが、既に飛び去った後だから、どうしようもない。


「たっちゃん? ちょっと池であいつ水浴びするから、バレないように気をつけて!」

「はいであります!」


 レオ達に聞かれないように、猿渡池に指令を出すジェニファーであった。



「ふ〜 疲れた……」


 面倒事から離れて、やっとリラックス出来る。クタクタだ。その池は昔のLITにあった湖以上の広さで、波一つたてず静かな姿である。裸になるには寒い。池のほとりで最低限の泥を洗い流す美咲だが、生き物が側にやってきた。


「あら?」


 それはロボットネコ(ノイビオロ)だった。池に入ったのか、すっかり濡れそぼっている。ゲームスタート時から切っていたし、ここまでは、彩の帰還指令が届かなかったらしい。


「お疲れさん。帰ろうね」


 と、美咲はそれを抱きかかえた。濡れているが、問題は無いようだ。


「レオ、もう帰っていいの?」


 美咲はレオに通信する。


「うん、こっちもカッタクルスに戻ってるとこ。3人ともケラミュ(プチモン)達に搬送手伝ってもらってるよ。明日の営業時間までに、総て修繕するらしいんだ。人件費も無料で働き者だね」


 明日も通常営業とは。

 がんばれよと、心の中で呟く美咲であった。


 

 カッタクルスには、3人も戻っていた。

 既に治療を受け、包帯もぐるぐる巻かれた姿だが、大丈夫みたいだ。


「みんな、お疲れさん。今日は大変だったから、週末まで休んでて良いよ」


 レオの労いの言葉も聞いているのか聞いてないのか、到着まで皆ぐっすりと寝ていた。

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