67 最後の難関
「大丈夫かい?」
「リーダー!」
さっきまで浩がいたグラウンドのコースには、大きな穴が口を開けていた。
落とし穴だ。
そのぽっかりと開く落とし穴に、レオと美咲は慌てて駆け寄った。
近づいて分かったが、見下ろすと、かなり深い。
うーーーん
うめき声が聞こえる。生きてはいるようだ。
「ひゃーっはっは! バカめ、まともな勝負しようなんて、これだからジャッポーネはマヌケなんだよ! カルチョと同じで、見えないとこで仕掛けねえとな。このトンマやろう!!」
してやったりと言う顔で、ヨッピーから下りたマーリオは腹を抱えて、笑い転げていた。そこに、つかつかと美咲が歩み寄る。
「お、愛しのアモーレ、やっと僕のところに来る気に、ギャオーー!!!」
完全に油断したマーリオの腹に、渾身の蹴りを入れる。
すると彼は、観客席まで吹っ飛び、壁に張り付いたまま動かなくなった。
「おばちゃん、やったね!」
レオは、とりあえず勝てたから良いや、と言う感じの表情だ。
落とし穴を覗き込むが、真っ暗で見づらい。今から浩を救出する時間はなさそうだ。
「すいません、先行って下さい〜」
穴の底から、浩の声が聞こえる。
「後で来るから、待っててね」
レオはそう言って、美咲と一緒に先を急いだ。
時計の表示は【04:13】とあった。
距離的にはもう少しだが、間に合うか微妙だ。
▷ ▶ ▷ ▶ ▷ ▶ ▷ ▶ ▷ ▶
「っくしょう、やっぱイタ公あかんかったか。すんまへん」
「まあ、良いわ。最後はここだから。ゴールは絶対不可能よ!」
猿渡池を慰めるジェニファーは、余裕の笑顔だった。
既に勝ちが決まっているかのように、振る舞っている。
「やっと、ここに来たよ」
レオが言う。
「そうですね」
美咲は相槌を打つ。
2人はゴールのある発電所下に辿り着いた。
この前登った丘は高く、時間に間に合うのか微妙だ。
「あ、あれ!」
美咲が指差した丘の上は、一面光り輝いていた。
そしてその正体は、直ぐに判明する。
ビコビーコ!!
ビカビカッ!!
無数のピコチュウが、一分の隙間無く取り囲んでいた。
これが、最終手段なのだろう。
残り時間【03:15】
「おばちゃん、これでいこう」
レオは美咲の耳元で囁いた。
「了解です」
「んじゃ、行くよ!」
レオはヴォランタペで、美咲は丘を駆け上がって、ゴールを目指した。二方向から攻めて、向こうの戦力を削ぐ作戦だ。
残り時間【03:00】
ビコ、チュウーー!!
ピコチュウ達はまずレオより美咲を標的にしたのか、真下を向いて電撃攻撃をしかけた。
ビカビカッ!!
雷光が美咲を突き刺そうとする。水平移動で避けながら上がる美咲だが、圧倒的に不利だ。ピコチュウの波状攻撃は凄まじく、遂にその一撃が美咲を直撃した。
「きゃあ〜!」
美咲は崖を転がり落ちて行き、薮の中へと消えて行った。
「おばちゃん!!」
レオは焦るが、既に美咲の姿は見えない。
「あの馬鹿女をやっつけたわ! あとはレオちゃんだけね!」
丘の真ん中では、ジェニファーが勝利を確信した、満面の笑みを浮かべている。幸せなジェニファーの様子に、ビコビコ!!と、ピコチュウ達も嬉しそうに共鳴していた。
「仕方ない。じゃあ行くか」
1人になったレオはヴォランタペで上昇し、果敢に攻めて行った。
残り時間【01:39】
ピコチュウ達のディフェンスは完璧だ。とにかく丘の上まで上昇し、様子を確認する事にした。広場は、ぎっしりとピコチュウがいる。そして中央には、嫌な笑みを浮かべるジェニファーがいた。
こんなに集めるかねえ。
レオはジェニファーの作戦に、苦笑いするしか無かった。
「残念ねえ、もう少しだったんだけど♡」
レオを見て、いかにもしてやったりという顔をする、ジェニファーだ。姉に散々引っ掻き回された、忌まわしい過去が去来する。まあ、お仕置きはもう少し後だ。
「まだ時間はあるよ」
「でもこの状態で、どうするの?」
ジェニファーは、いかにもお気の毒ねという顔をしたが、全く同情していないのは明らかだった。
残り時間【01:02】
「時間が尽きるまで、やらせてもらうよ」
そう言ってレオは、ピコチュウ達の群れに突進した。
だが電撃に遮られ、やはりゴール出来ない。
残り時間【00:45】
「まあまあ。無駄な努力って、悲しいものよね。でも良いのよ。わたしの足の指でも舐めれば、許さない事もなくってよ」
「やる訳ないっしょ」
レオは万が一の可能性にかけて、攻撃し続けた。
終わりの時は、刻一刻と迫っている。




