64 提案
『猿渡池指令、ケラミュ達からのデータ解析結果がきました』
「おお、そうかそうか」 にんまりする猿渡池だ。
『どうも、あのレーザー銃は彼女しか持っていません。また射程距離も15メートルです』
「ほほお。じゃあ、あいつらが適任か?」
『おそらく』
「ほな、待機させろ」
『御意』
弱点も分かり形勢逆転と読んだか、不適な笑みを浮かべる猿渡池であった。
「たっちゃん、良かった〜♡ じゃあ私は愛する弟に会ってくるね。作戦よろしく」
「了解です!」
ジェニファーもすっかり機嫌が直り、意気揚々と3Dホログラム室へと向かって行った。
「よっしゃ、やったるで〜」
気を取り直し、猿渡池は仕事に励み始めた。
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「おばちゃん、大丈夫?」
レオがヴォランタペに乗って、草原地帯に到着した。残りの3人も集まる。
「おかげさまで、LP銃の威力は抜群です!」
「良かった良かった。じゃあ彩さん、ロボットネコはカッタクルスに回収させて。うちらは、まずここを抜けよう。刺激しないように、そっと歩いてね」
レオを囲み周囲を窺いながら、5人は寝ているケラミュ達の群れから脱出した。
突然、タマーキャッスル脇にジェニファーの巨大立体映像が現れた。5人からもよく見える。彼女は眼に涙を浮かべ、訴えかけるように喋り始めた。どこかのスピーカーから、声も聞こえた。
「レオ、いつまでお姉ちゃんをいじめるの? 昔はあんなに仲良かったのに、折角遊びにきてくれたと思ったのに…… お姉ちゃんは、ひっく、お姉ちゃんは、えぐ」
昔を思い出したのか、巨大なジェニファーは、泣きそうになっている。
「いや、昔もそうやって泣きまねして、だまし討ちしたじゃん。その手に乗んないよ」
レオの声はジェニファーまで届き、彼女はレオ達の姿を認めた。
彼は、冷静にジト目している。
女の涙ほど万能技はない。だが過去にやり過ぎたのか、弟にはもう効果が薄れたようだ。演技を見破られ、慌てて素に戻るジェニファーであった。
「と、とにかく何しにきたの! もうLITなんかやめて、大人しく私の軍門に下りなさい!」
「いや、それはお断りするよ。でもさ、ちょっとお願いなんだけど、旧式で良いからコア部分一つゆずってもらえないかな? トミえもんてロボット、覚えてる?」
「トミえもん? ああ、昔作った試作機の一つね。あんたが気に入んなかったから直ぐに売り払ったんだけど。何かしたの?」
「そうだったんだ。益々悪かったな。今ちょっと、うちで厄介になっててね。どう? 可愛い弟の頼みを聞いてもらえますか? じ、ジェニファーちゃん?」
レオもそれなりに姉をリスペクトしているのか、多少おだてて何とか事を運ばせたいようだ。
「そうね…… 無料でやるのはシャクだから、ゲームしよっか?」
急にジェニファーは、何か閃いた顔になった。
「この前も来た丘、覚えてる?ピコチュウちゃん達の発電設備。あそこまで制限時間内に辿り着いたら、あんたの勝ちってどう?」
「良いの? ケラミュは使えないけど」
「それくらい、ちょうど良いハンデよ。じゃあ十五分以内で。あ、そうだ、あんたが負けたらルタンチャーの仕様書ちょうだい! スライム作りたくって」
「え、ちょっと割にあわないような……」
「嫌なら良いのよ? あのコア部分だって、私の汗と涙と努力の結晶なんだから!」
「分かったよ。じゃあその条件で」
「やっぱりレオちゃんね。聞き分けが良くて助かるわ」
そう言うと、タマーキャッスル上空にデジタル時計が現れた。【15:00】と表示されている。
「いくわよー レディ、ゴー!!」
ジェニファーのかけ声と共にデジタル時計が動きだす。5人は奥にある丘を目指し、走り出した。




